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2022年9月の台風14号の衛星画像(人の目で見たような色を再現)=気象庁提供、NOAA/NESDIS、CSU/CIRA

 米マイクロソフトが開発した気象予報のAI(人工知能)モデルが、従来の予測法を上回る性能を発揮した。100万時間を超える過去の気象パターンを学習。熱帯低気圧の進路予想では、気象庁を含む世界の主な予報センターの成績を上回ったという。論文が英科学誌ネイチャーに掲載された(https://doi.org/10.1038/s41586-025-09005-y)。

 朝に上着を羽織るかから、災害対応、作物の収量予測まで、私たちの生活と「天気の行方」は切り離せない。近年は気候変動による異常気象も増え、正確な予測がさらに重要になっている。

 いまの天気予報は、主に大気の動きを支配する物理法則の方程式をスーパーコンピューターで解いている。しかし、太陽の熱や風、雲などを考慮した方程式は複雑で、計算コストが大きい。

 システムの安定運用や精度向上をめざしたプログラムの開発に、専門の技術者チームが多くの時間を割いている。計算には近似を使うため、予測精度にも限界がある。

 こうした課題の解決策として開発されたのが、マイクロソフトのAI気象モデル「Aurora(オーロラ)」だ。人工衛星や気象観測所、シミュレーションなどから得た100万時間を超える地球全体の大気などのデータを「事前学習」。さらに大気汚染や熱帯低気圧の進路など、目的に合わせてデータを「追加学習」させると、それらを高い精度で予測できるようになる。

 例えば熱帯低気圧の進路。オーロラに2022~23年の地球全体の熱帯低気圧のデータを追加学習させた。すると、5日間の進路予想で、気象庁を含む世界の七つの主要な予報センターの精度を上回ったという。

 23年7月に発生し、フィリピンなどに大きな被害をもたらした台風「Doksuri(トクスリ)」の進路は、4日前から同国への上陸を正確に予測。この時点で、米国機関の従来法の予測は台湾近くに渦の中心を置くものだった。

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2023年7月に発生した台風「Doksuri(トクスリ)」の進路予想。オーロラの予想(青)は実際の進路(黒)と合っていたが、米国機関の予想(オレンジ)は外れていた=論文から

 波浪予報では、22年9月に日本に上陸し、大きな被害をもたらした台風14号による波高を予測。精度は従来法の最高レベルと同じか、それ以上だったという。

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台風14号によって鹿児島市の中心地にある鹿児島本港にも波が押し寄せた=2022年9月18日、鹿児島市、金子淳撮影
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2022年9月の台風14号による波浪についてオーロラが出した予報。赤枠が台風の位置で、数字がピークの波高=論文から

 このほか、大気汚染の予測や解像度の高い10日間天気予報でも、多くの指標で従来法を上回る性能を示した。

 従来法なら新システムの開発に数年はかかるが、追加学習は4~8週間で完了するという。

 オーロラは23年に開発が始まり、24年に最初の研究段階を終えた。いまも機能を拡充するための開発が続いている。論文筆者の一人、米ペンシルベニア大のパリ・ペルディカリス氏は「将来的には洪水予測や大気汚染対策、再生可能エネルギー生産のための予測などにも活用できる可能性がある」とする。

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論文筆者の1人で米ペンシルベニア大のパリ・ペルディカリス氏(©Sylvia Zhang)

気象庁もAI戦略、予報官の役割は

 AI気象モデルはオーロラだ…

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