米マイクロソフトが開発した気象予報のAI(人工知能)モデルが、従来の予測法を上回る性能を発揮した。100万時間を超える過去の気象パターンを学習。熱帯低気圧の進路予想では、気象庁を含む世界の主な予報センターの成績を上回ったという。論文が英科学誌ネイチャーに掲載された(https://doi.org/10.1038/s41586-025-09005-y)。
朝に上着を羽織るかから、災害対応、作物の収量予測まで、私たちの生活と「天気の行方」は切り離せない。近年は気候変動による異常気象も増え、正確な予測がさらに重要になっている。
いまの天気予報は、主に大気の動きを支配する物理法則の方程式をスーパーコンピューターで解いている。しかし、太陽の熱や風、雲などを考慮した方程式は複雑で、計算コストが大きい。
システムの安定運用や精度向上をめざしたプログラムの開発に、専門の技術者チームが多くの時間を割いている。計算には近似を使うため、予測精度にも限界がある。
こうした課題の解決策として開発されたのが、マイクロソフトのAI気象モデル「Aurora(オーロラ)」だ。人工衛星や気象観測所、シミュレーションなどから得た100万時間を超える地球全体の大気などのデータを「事前学習」。さらに大気汚染や熱帯低気圧の進路など、目的に合わせてデータを「追加学習」させると、それらを高い精度で予測できるようになる。
例えば熱帯低気圧の進路。オーロラに2022~23年の地球全体の熱帯低気圧のデータを追加学習させた。すると、5日間の進路予想で、気象庁を含む世界の七つの主要な予報センターの精度を上回ったという。
23年7月に発生し、フィリピンなどに大きな被害をもたらした台風「Doksuri(トクスリ)」の進路は、4日前から同国への上陸を正確に予測。この時点で、米国機関の従来法の予測は台湾近くに渦の中心を置くものだった。
波浪予報では、22年9月に日本に上陸し、大きな被害をもたらした台風14号による波高を予測。精度は従来法の最高レベルと同じか、それ以上だったという。
このほか、大気汚染の予測や解像度の高い10日間天気予報でも、多くの指標で従来法を上回る性能を示した。
従来法なら新システムの開発に数年はかかるが、追加学習は4~8週間で完了するという。
オーロラは23年に開発が始まり、24年に最初の研究段階を終えた。いまも機能を拡充するための開発が続いている。論文筆者の一人、米ペンシルベニア大のパリ・ペルディカリス氏は「将来的には洪水予測や大気汚染対策、再生可能エネルギー生産のための予測などにも活用できる可能性がある」とする。
気象庁もAI戦略、予報官の役割は
AI気象モデルはオーロラだ…