中西悠子さんは、選手時代を過ごした枚方SSで指導している=2022年、大阪府枚方市

 今年も暑い季節を迎えた。毎年起こる水にまつわる悲しい事故をゼロにしたい――。そんな思いで、教員向けの研修会やプール教室の指導に取り組むのが、水泳元五輪代表の中西悠子さん(44)だ。2004年アテネ大会女子200メートルバタフライの銅メダリストに、水と触れ合う時の心構えや溺れかけた時の対処法を聞いた。

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 ――中西さんは現役時代から、溺れて亡くなる事故を防ぎたいと思っていたそうですね。

 「私は0歳の時からベビースイミングに連れていってもらっていて、物心ついたときには泳げました。泳げるからこそ、水に対して最低限注意するべきことを守るだけでも、防げる事故があるはずだという思いがありました」

 ――競泳用のプールに限らず、川や海でも泳ぐんですか?

 「川や海にはほとんど行きません。プールと違って流れや波があるし、地形で急激に水深が深くなるところもある。自分の力ではどうにもできない環境は、競泳をやっていた私でも怖いと感じます。実際、04年にはアメリカを旅行した時、サーフィン中に大波をかぶって溺れかけたんです。『オリンピックで泳いだのに、溺れてしまうのか』と強い恐怖を感じました」

 ――水に慣れている人でも、冷静でいられなくなる時があるんですね。

 「泳げない人だったら、きっと水が口に入ったり鼻に入ったりしただけでも慌ててしまうんだろうと思います。水の中がどんな場所なのかを体験できる意味でも、学校の授業は大事だと思っています」

 ――毎年、暑くなり始める5、6月ごろから水辺での事故が増えます。学校でプールの授業が始まる前後です。

 「夏休みに家族でレジャーで海や川に行くときは、保護者の目がある。でもちょっと暑くなって、放課後に友達と近くの川やため池に近づく。足だけ水につけてみようかとなる。そこで、悲しい事故が起きてしまう。大事なことは、とにかく子どもだけで水辺に近づかないことなんです」

 ――ただ、好奇心から水辺に近づいてしまうケースも多いです。もし溺れそうになったら、どうすればいいのでしょうか。

 「空を見て、あごを上げる。そして、とにかくバタバタしないことが大事です。バタバタすればするほど体力を失うし、呼吸が乱れるから肺の中の空気を失ってしまいます。深く呼吸して肺に空気を入れないと、体が持つ浮力が失われ、沈みやすくなってしまうんです。しっかりと呼吸をして、『浮いて待つ』が大事です」

 ――川や海で友達が溺れそうになったら、陸にいる人がすべきことは何でしょうか。

 「大事なことは、自分は決して水の中に入らないこと。溺れている人の(助けに来た人をつかんでくる)力は想像以上で、助けに入った人が一緒に溺れてしまいかねません。警察や消防に電話して助けを呼び、周りにロープや長い棒など救助に使えるものがないかを探す。空のペットボトルも浮く手助けになります。ただ溺れている側がパニックに陥っていては、あまり効果が期待できないかもしれません」

 ――実際に自分が溺れたら、冷静ではいられないと思います。

 「速く泳げる必要はありません。いざという時に力を抜いて浮く、できれば上向きでバタ足ができる。それだけでも、助かる可能性は高まります」

 ――万一に備え、子どもたちに授業で服を着てプールに入る経験をさせる学校も増えていると聞きます。

 「服を着てプールに入るだけでは十分ではないと思うんです。着衣でちょっとでもバタ足をする、服を着た状態で水の中で浮いてみる。「着衣泳」をやることで、いざという時に役に立つかもしれません。改めてですが、何よりも大事なのは子どもだけで水辺に近づかせないこと。それを学校や家庭で、繰り返し呼びかけてほしいです」

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