山林火災で焼失した自宅へ戻った住民=2025年3月10日午前11時47分、岩手県大船渡市三陸町綾里港、小宮健撮影

 岩手県大船渡市の山林火災は避難指示が全面解除されたことで、徐々に被害状況が明らかになってきた。住宅などの建物への被害だけでなく、主要産業の水産業にも大きな影響を与えそうだ。

「もう仕事をやめようかな」

 炎は、なりわいも燃やし尽くした。

 岩手県大船渡市三陸町綾里の小路地区。崎山信光さん(57)は自宅とともにウニ漁の漁具なども全て失った。

 4月から進学で新生活を始める息子のために買い込んでいた電化製品も燃えた。自宅の再建も含めれば数千万円は必要そうだ。

 東日本大震災では漁業の再建に公的支援があったというが、今回はどうなるのか不安が募るという。「震災に比べると被災者が少ない。でも、今回も仕事ができない状態なのは同じ。このままでは稼げず暮らしていけない」。ウニ漁は5月にも始まるという。

 「今は何も考えられない」。小路地区の「中島商店」の代表(66)は、全焼した水産加工場の前で立ち尽くした。

 東日本大震災では海沿いにあった水産加工場が津波で全壊。震災後、ヒジキやウニなどの加工場を高台に再建したが、今度は火災で焼失した。

 「今回の火災で、もう仕事をやめようかなと思っている。もう本当に、なんと言ったらいいのか」と言葉を詰まらせた。

養魚が大量死

 研究用のニジマスやサクラマスなどを飼育している岩手大学の三陸水産研究センターの綾里試験池(岩手県大船渡市三陸町綾里)で10日、大量の魚が死んでいるのが見つかった。

 もとは養魚場だった試験池には大小数千匹の魚が泳いでいた。付近の沢は冬期間に水量が減るため、周辺から伏流水をくみ上げたり、内部で循環させたりしていた。しかし、山林火災に伴う停電で送水が止まり、酸素不足などに陥ったとみられる。水面には腹部を上にした魚が大量に浮いていた。

 同センターは避難指示の解除を待って真っ先に試験池へ向かい、被害状況の確認と死んだ魚の回収作業を始めた。この秋にも海に移して育てる予定だった魚のほか、採卵するために3、4年育てた大きなサイズのものも死んだという。

 平井俊朗センター長は「管理している地域の方は自宅が大変な中、ぎりぎりまで見回ってくれた。どのくらいの被害になったのかわからないが、早く状況をまとめたい」と話していた。

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