停電による海水循環システムの停止でほぼ全滅した養殖アワビ=2025年3月、岩手県大船渡市、元正栄北日本水産提供

 東日本大震災で被災し、山林火災で養殖アワビがほぼ全滅する大打撃を受けた岩手県大船渡市三陸町綾里のアワビ養殖会社「元正栄北日本水産」が26日、再起のための資金をクラウドファンディング(CF)で募り始めた。同日に県庁で会見し、「食用アワビを3年後には再び出荷したい」と支援を呼びかけた。

 同社は1982年に創業し、アワビの完全陸上養殖に取り組んできた。震災の津波で養殖施設が全壊したものの、生き残った親アワビを探し出し、約10年かけて震災前の売り上げ水準に回復したという。2020年からは「三陸翡翠(ひすい)あわび」としてブランド化し、「肉厚で柔らかく肝までおいしい」と強調して、コロナ禍を乗り越えて、国内だけでなくアジア各国や米国にも販路を広げてきた。

 今回の山林火災では、資材置き場や海水をくみ上げるポンプが焼失。さらに停電でアワビの成育に不可欠な新鮮な海水の供給が止まり、稚貝も含めると約250万個のアワビがほぼ全滅した。古川季宏社長(56)は「被害額は5億~6億円になる見込み。食用アワビは出荷できるサイズに成長するまで最低でも2年半はかかる。震災のときに背負った借金もあり、自己再建は不可能だと判断した」と語る。

 岩手県はアワビの水揚げ量で日本一を誇る。なかでも大船渡は一大産地。そのため大船渡商工会議所では、今年度からアワビを地域の活性化の目玉とする事業を実施し、「年間を通じて新鮮なアワビを味わえる」とアピールを始めたばかりだった。

 CFサイト「READYFOR」(https://readyfor.jp/projects/ofunato_hisuiawabi)で6月24日まで資金を募っており、目標額は5千万円。集まった資金は汚水処理やポンプの修繕などにあてる。1万円以上寄付すると、寄付額に応じて同社通販サイトで使えるクーポン券がもらえる。

 営業部長の古川翔太さん(29)は「会社に残る判断をしてくれた全従業員、励ましの声を寄せてくれる取引先やお客様、そして地域の活性化のためにも、再開にむけて事業を継続したい。再び出荷できたあかつきには、支援いただいた皆さまにアワビを楽しんでいただき、一緒に喜び合いたい」と語る。

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