養殖に利用している白沢浄水場の水質監視用の池=2025年2月6日、宇都宮市白沢町、海東英雄撮影

 イチゴを食べて大きくなったニジマスが宇都宮市の特産品になる――。市上下水道局が浄水場を活用して取り組む養殖事業で、1年かけて試しに育てたマスは上々の出来栄えだった。新年度、養殖の規模を大きくする。

 養殖は水道水の水質の良さを訴えるためにはじめた。ペットボトルのミネラル水や水のサーバーの普及で「水道水離れ」が進む懸念があるという。市は、北部にある「白沢浄水場」の水をペットボトルで販売するなどしてきたが、そうした活動が養殖に発展した。

 養殖場は、白沢浄水場の水質監視用池(約30立方メートル)を活用。ニジマスの改良種「ヤシオマス」の稚魚を100匹仕入れ、昨年1月から育ててきた。同局経営企画課の鈴木昭宏さん(49)は「清流を好むマスを使えば面白いかも、という発想だった」と話す。

 ヤシオマスは栃木県水産試験場が開発した大型ニジマス。県花ヤシオツツジにちなんだ名前で、商標登録もされている。産卵しないために肉質が劣化せず、脂ものりやすいという。

 水道局のマスは、エサに特徴がある。規格外のイチゴ(スカイベリー)を近隣農家からわけてもらい、ミキサーで液状にして既存のエサに混ぜ、乾燥させて与えている。「いちご王国」をうたう栃木県では、宇都宮市でもイチゴ栽培が盛んだ。インパクトを出す効果を狙った。「イチゴに含まれるビタミンCやポリフェノールが成長や味によい影響を与えるかも」(鈴木さん)という期待もある。

 マスは「うつのみやストロベリーサーモン」と名づけた。

 水源の地下水温は、マスにとって最適な約15度に保たれている。この1年で、出荷に十分な2~2.5キロに成長したといい、養殖の過程で死んだのは、わずか1匹だった。

 1月下旬の試食会で、記者たちも口にした。肉厚の刺し身は、脂っこくなく淡泊な味わい。もちろん、イチゴの風味はない。

 水道局の4~5人でつくるチームが、県水産試験場の指導も受けて養殖を担ってきた。そのひとり、関口祐樹さん(28)はふだん、水道管理課で水道施設の更新計画を練る。本来の仕事の合間を縫って、イチゴのヘタ取りやエサの量の調整をしてきた。「ちゃんと育ってくれたのがなにより。味の評判もいい」と、手応えを感じている。

 これまでに70匹ほどを水揚げした。栄養成分を確認したり、料理店で試食してもらったり。販売先の開拓など、ブランド産品として売り出すための試行錯誤の最中だ。残りは3キロまで大きくするという。

 新年度は養殖規模を倍の200匹にする。今の池の隣にある約2倍の大きさの監視用池を利用する予定だ。鈴木さんは「水質のPRだけでなく、マスが市の特産品になってくれれば」と願っている。

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