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 29日に第107回全国高校野球選手権静岡大会が開幕する。出場する109校107チームのうち、複数の学校の生徒が一つのチームを組む「連合チーム」がある。熱海、浜松湖北佐久間分校と、今年度新たに県高野連に加盟した浜北特別支援学校の計10人だ。特別支援学校の静岡大会出場は初めて。7月6日の初戦に向け、ともに白球を追う。

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練習試合にのぞむ「熱海・佐久間・浜北特支」の選手たち=2025年6月22日午後2時2分、静岡県磐田市、斉藤智子撮影

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 静岡県磐田市内で22日にあった練習試合で、ベンチから大きな声が響いた。「切り替え、切り替えー。ワンアウトとってるよー」

 声の主は、浜北特支の池田謙信さん(3年)。控えの外野手の池田さんはこの日、胸元に「HAMAKITA」と校名が書かれた真新しいユニホームに初めて袖を通し、グラウンドに立った。校名の緑色は、好きな村上宗隆選手が所属するプロ野球ヤクルトのユニホームの色を参考にした。

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 知的障害と聴覚に障害がある池田さんは人工内耳を付けている。部活でサッカーをするなどスポーツが得意だ。一昨年春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で野球に興味を持ち、2年で担任になった袴田裕之教諭(43)に誘われ、昼休みにキャッチボールを始めた。袴田教諭の勧めで今年1月から知的障害のある全国の生徒を対象に、硬式野球への挑戦を支援する「甲子園夢プロジェクト」の練習会に月1回、通うようになった。

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練習試合で一塁コーチを務める池田謙信さん=2025年6月22日午後0時10分、静岡県磐田市、斉藤智子撮影

 池田さんの熱意と努力を受け、学校側は県高野連への加盟申請を決めた。池田さんの静岡大会出場の夢をかなえるとともに、今後、池田さんのように野球をしたいと望む生徒への道をつくろうという判断だ。

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 ともにチームを組む熱海は部員4人、佐久間は5人。一昨年も連合チームを組み、静岡大会に臨んだ。熱海は廃部の方針が決まり、今年の新入部員はいない。

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連合チーム「熱海・佐久間・浜北特支」の選手とマネジャー=2025年6月14日午後4時51分、熱海高校、斉藤智子撮影

 チームは4月下旬から、土日を中心に練習試合の実戦を重ねる。捕手の平出琥太郎さん(佐久間、2年)が「元気出していこうー」と呼びかけると、9人が「おー」と応じた。

 当初はぎこちなさもあったが、次第に消えた。今は、誰もがメンバー一人ひとりの長所をすぐに挙げられるまでに。主将で投手の高木大希さん(佐久間、3年)は「試合中もしっかりとコミュニケーションをとれるチームになってきた」と手ごたえを感じている。

 状況やサインに応じた動きを確認する練習では、経験の乏しい池田さんにアドバイスの声が飛ぶ。「謙信、リード」「謙信、エンドランはボール球も振らないと」。池田さんも集中して受け止める。

 自宅での素振りなどの個人練習を積んできたが、「まだまだ足りない。メンバーが一緒に教えてくれて、感謝している」と池田さん。その成長ぶりに、主将の高木さんは「会うたびに、シートノックで捕れる球、バットに当てられる球が増えている。わくわくする」と喜ぶ。

 勝つための戦力として、仲間が真剣に接してくれているのを感じる。だからこそ、特にピンチの時、勢いづかせるような声かけをするのが自分の役目だと池田さんは考えるようになった。ミスをしても、声をかけてみんなでカバーし合う。サッカーとは違った野球の面白さがあるという。

 初戦の相手は浜松日体に決まった。「笑顔のある、みんなで最後まで笑えるような大会にしたい」と池田さん。チームをまとめる高木さんは「悔いを残さないように攻めの気持ちでやりたい」と決意を語った。

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練習試合にのぞむ「熱海・佐久間・浜北特支」の選手たち=2025年6月22日午後2時2分、静岡県磐田市、斉藤智子撮影

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