黒い大きなザックと緑のダウンジャケットを身につけ、今年も知床にやってきた。
- 知床・観光船沈没、慰霊碑どこに 乗客家族は「道の駅」、複雑な地元
息子が行方不明になってから3年となる。
福岡県久留米市出身の小柳宝大(みちお)さん(当時34)の父親(66)は、知床半島沖で沈没した観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が出港した港で、海に手をつけた。
「息子に少しでも近づけたようで、うれしいですね」
海を見ながら、この1年間の出来事を伝えた。運航会社の社長が業務上過失致死罪で起訴されたこと。別の乗客家族のデジタルカメラが見つかり、船に乗り込む赤いセーター姿の宝大さんの写真が復元されたこと。
今年の知床は、今までで一番寒かったように感じる。海風も、痛い。
そんな冷たい海から戻ってきたのが、身につけていたザックとジャケットだった。船体が引き揚げられた時に見つかった。
水浸しの状態だったザックは乾かしても、汚れが残った。何度も何度も手洗いした。ダウンはその中に入っていた。
いつ再び話せるのだろう。「骨のひとかけらも戻ってこんですから。語りかけられるのは、知床だけです」
慰霊碑は、道の駅など人の多く来る場所に建ってほしいが、毎日見る地域の人につらい思いをしてほしくはない。
自然が好きだった息子が、見たかった知床。斜里町には、栄えてほしい。そう願っている。