ひだかブランドPR動画で紹介されている「かきまでご飯の素」を作る「いなみの料理広め隊」=日高振興局提供

 海と山の幸に恵まれた和歌山県印南町で昔から慶弔やお祭りなど、人の集まるときに振る舞われてきた「かきまでご飯」。焼いたサバの骨でだしをとり、サバの身と季節の野菜などを炊いたごはんに混ぜ合わせる。基本的に酢を使わないのが特徴だ。「かきまぜ」がなまって、そう呼ばれるようになったという。

 ふるまいの機会が少なくなり、少子高齢化などライフスタイルが変化するなか、ふるさとの味を継承しようと活動をしている「いなみの料理広め隊」の代表、小田美津子さん(81)がこの味に出会ったのは約60年前にさかのぼる。みなべ町出身の小田さんは21歳で印南町に嫁いできた。結婚式の夜、義父の浅吉さんがたくさん振る舞ってくれたのが「かきまでご飯」だった。

 「義父の大好物でした」と小田さんは振り返る。浅吉さんは16歳から50歳過ぎまで、勉学のため米・ロサンゼルスで過ごしたという。渡航の際も、竹皮に包んだ大量のかきまでご飯をボストンバッグに詰め込んで、船内に持ち込んだ。「日本に戻ってきたときにまず、かきまでご飯を食べたいと思ったと話していました」

 浅吉さんに作り方などを学び、小田さん自身も好物になった。浅吉さんが92歳で亡くなる前に「大好物をたくさん食べさせてもらえた」と、涙を流して感謝を伝えられたという。

 「この味を伝えていきたい」と、30年ほど前に「広め隊」の前身となる会をつくり、地域イベントに出店したり町内の学校の調理実習で指導したりしてきた。そして、調理の手間を省きながらふるさとの味に親しんでもらいたいと、2018年にご飯に混ぜるだけで味わえるレトルト製品「かきまでご飯の素」を開発し、販売を始めた。「若い人たちにも味を伝えていきたい」と小田さん。広め隊には30代の男性も参加しているという。

 かきまでご飯の素を使って作ってみた。ほのかな甘みも感じるやさしい味を楽しんだ。冷めたご飯をおにぎりにしてもおいしかった。

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