日本に長く住み、複数の人種や民族のルーツ(ミックスルーツ)がある人が受けている差別の実態について2人の研究者がアンケートを集めたところ、回答者の98%が「差別を受けた経験がある」と答えた。ミックスルーツに起因する差別について公的な実態調査はなく、対策も後手に回っている。研究者は、さらなる実態把握や、教育や福祉面での対応が必要だと訴えている。
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米カリフォルニア大学客員研究員の下地ローレンス吉孝さん(国際社会学)と、トロント大学博士課程の市川ヴィヴェカさん(社会福祉学)が今年3~4月、「日本における複数の民族・人種等のルーツがある人々のアンケート調査」を行った。複数の民族や人種にルーツを持ち、日本で1年以上暮らしたことがある成人を対象に、オンライン上で計448人から回答を得た。
98%がマイクロアグレッションを経験
偏見による日常的な差別「マイクロアグレッション」について、回答者全体の98%が「経験した」、68%は「1カ月以内に1度以上経験」と答えた。また、小中高時代などのいじめについては、68%が被害を受けたとしている。よくあるマイクロアグレッションの事例としては「ハーフだから英語がペラペラ」「ハーフだから美人」などが挙げられる。本来、ルーツと言語能力、容姿は直接の因果関係がないにもかかわらず、思い込みで決めつけてしまっている。
「直近1カ月以内に精神的な不調がある」と回答した割合は47.18%だった。これは、厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2022年)で示されている一般的な割合9.20%の約5.1倍だ。18、19歳のミックスルーツの回答者にしぼると、一般の約6.6倍の61%、20代では約5.9倍の54%だった。
また、自殺未遂の経験があると回答した割合は13.06%、自傷行為の割合は20.56%だった。日本財団の「自殺意識調査」(2021年)が示す自殺未遂6.20%、自傷行為10.70%と比べると、約2倍の差が見られた。
ミックスルーツの人の「孤立」をうかがわせるデータも。回答者の31%は「サポートを十分に受けられていない」と答え、心理カウンセリングや病院を受診したという人の割合はいずれも3割ほどにとどまる。
「排他的な規範が根づいている」
2人の研究者によると、ミックスルーツの人々の心の健康状態に着目した全国調査は初めてだという。ただ、ネットによる任意のアンケートのため、あくまで試験的な調査と位置づけている。今後、大学や国の予算を得て、本格的な調査を展開したいという。
下地さんは「98%という数字にも衝撃を受けたが、日常生活の様々な場で『日本人か外国人のどちらか一方であるべきだ』という排他的な規範がいかに根づいているか、ということを改めて感じた」と振り返った。
心理療法士でもある市川さんは「ミックスルーツ特有の悩みも多いため、特に福祉や心理、教育の関係者には理解を深めてもらいたい」と訴えている。(小川尭洋)