自宅の廊下にたまった泥水をかき出す女性=2024年9月23日午前9時54分、石川県輪島市河井町、内田光撮影

 記録的な大雨に見舞われた能登半島。浸水被害を受けた石川県輪島市中心部では、23日朝から住民らが片付けに追われていた。

 「心が折れてしまったら、もう動けん」

 河原田川が氾濫(はんらん)し、多数の住宅が床上浸水の被害にあった輪島市河井町。家の中から泥をかき出していた女性(57)がつぶやいた。

 雨が強く降り始めた21日朝、車だけでも避難させようと近くの小学校まで行って戻ってくると、水の高さはすでに胸のあたりまで達していた。浸水を見越して、玄関のドアは開けっ放しにしていたという。

 自宅に入ると、家具や床板、食べ物などがぷかぷかと浮いていた。鍋に、地震の際に買って少しだけ残っていた非常食を入れ、冷蔵庫からペットボトルに入った飲み物を取り出して、2階に避難した。

 元日の震災で自宅の屋根が大きく崩れた。それでも、20年ほど前に改築して無事だった台所とリビング、二階の子ども部屋で夫と2人で生活を続けてきた。そこに、今回の豪雨で大量の水や土砂が流れ込んだ。

 女性は何度も「笑うしかない」と繰り返した。泣いたってしょうがない、下を向いたって誰も助けてくれない、だったら上を向いて笑ってやっていくしかない――。自分を奮い立たせながら、無心に泥をかき出していた。

 同じく河井町に住む山崎了一さん(82)と妻の春枝さん(83)は、台所の周りの泥をかき出し、浸水被害で使えなくなった家財などを玄関先に出していた。

 21日は昼前から雨がピークになり、畳の下から水がしみ出してきた。息子と3人で座卓の上に座ってやり過ごそうとしたがあっという間に水かさが増し、2階に避難したという。

 家の前も泥だらけになり、「わしらだけでは(片付けは)無理。もうここには住めん。もう1回やり直すのは……」。疲れ切った表情で、泥の跡があちこちに残る家の椅子に座り込んでいた。(内田光)

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