地域防災を担う消防団で、自治体から支給される報酬を受け取れない団員が後を絶たない。団側が報酬を現金で手渡しさせるなどして「上納」させているからだ。総務省消防庁は3年前、こうした不正を改めるよう自治体に通知したが、一部の消防団では改善されていない。複数の団員が朝日新聞の取材に実態を証言した。
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消防団員は非常勤特別職の地方公務員で、全国に約74万7千人(昨年4月時点)いる。総務省消防庁は、団員の年額報酬3万6500円、1日の出動報酬8千円を「標準額」とし、金額は自治体によって異なる。
国が是正通知を出した後も
証言や団幹部とのLINEのやり取りなどによると、香川県内にある消防団の分団では、幹部がLINEなどで年報酬を定例会に持参するよう指示。団員はこれに応じて幹部に手渡したといい、「おかしいと思っても言えない雰囲気があった」と語る。埼玉県所沢市のある分団でも、団側からLINEで年報酬の支払いを促され、団員は指定された口座に振り込んだ。いずれも通知後の2023~25年のことだ。
団側が団員に報酬を上納させる手口には、これらの「現金型」のほか、団員の通帳やキャッシュカードを団側が預かるといった「口座型」もある。愛知県内の団員は入団時に幹部から口座を作り、通帳を渡すよう口頭で指示された。通知より前のことだ。指示に従った団員は「以来、報酬を手にしたことはない」と言い切る。内部資料には、団員から集めた報酬は団側が管理すると記されていた。
消防団は市町村が設ける地域防災を担う機関だ。報酬は、かつては市町村から団を経由して団員に支給されるのが一般的だったが、親睦会の費用として「中抜き」されるといった不正が、報道で表面化。消防庁は22年4月から団員に直接支給するよう市町村に改善を求め、同年8月には不正をただすよう通知を出した。
巧妙化する手口
通知では「現金型」も「口座型」も是正の対象として示され、特に「口座型」は犯罪収益移転防止法に抵触する恐れがあると指摘されていた。
こうした中、手口は巧妙化している。神戸市のある分団では、団員の口座に報酬が入ると、上部組織に当たる支団の口座に自動的に振り替えられる。入団時に「引き去り同意書」にサインし、こうした手続きを金融機関に申し込むことも迫られるからだ。その後、支団側が「活動費」を差し引き、残金を分団の口座に振り込む。分団も「活動費」に充てるため、報酬は原則として団員に還元されない。
これらの自治体以外にある複数の消防団の団員も朝日新聞の取材に同様の証言をしており、消防庁の通知後も団員の報酬をめぐる不正が全国で横行していた可能性がある。消防庁は「昨年4月1日現在で、直接支給を行っていない市町村が一定数いることについては確認している」とする。その上で、団幹部が団員の通帳などを預かって預金を引き出す行為は「早急に是正すべき」として、市町村に把握と是正を求めているという。
所沢市は「改めて今後、事実確認をする」、神戸市は「(強制的な徴収を)把握しておらず、調査の予定もない」、香川県内の自治体は「分団長らから個別に聞き取ったが、強制的に徴収している事実はない」とコメントした。愛知県内の自治体にも見解を尋ねたが、8日午後5時時点で回答はない。
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