Smiley face

レッツ・スタディー!小論文編 田中美空さんの振り返り

 NMB48メンバーによる小論文を河合塾の加賀健司講師に添削してもらい、文章表現の要点を探る「NMB48のレッツ・スタディー!」小論文編が5月で連載開始5周年を迎えました。小論文から得た学びとは何なのでしょうか。5周年を記念し、昨年11月~今年2月に担当してもらった田中美空さん(19)に振り返ってもらいました。(構成・阪本輝昭)

ファンのために生きると誓った私 直面した試練

田中美空さん=本人提供

 たなか・みそら 2004年、京都府生まれ。愛称みそら。NMB48の9期生。趣味はスタジオジブリの映画作品鑑賞。朝日新聞デジタルで「田中美空のジブリ夜話」連載中。

 「自分だけでなくファンと共に幸せになる」。3回にわたる小論文のラストを私はそう締めくくりました。私が一番世の中に伝えたかったメッセージです。ファンの幸せのために生きる。それが私がアイドルをやる究極の目的であり、小論文で問われた「自主性とは何か」というテーマへの私なりの答えなんだと。

 思いがけず、その真価を問われる場面が6月5日にありました。その日の劇場公演で、同期の9期生2人が研究生から正規メンバーに昇格すると発表され、私は研究生の立場に据え置かれることになったのです。

 研究生というのは一人前になる前の、修業中のアイドルといった意味で、正規メンバーに比べると活動面で制約があります。昇格の順番は活動実績やパフォーマンス力などで決まります。私は昇格第一陣を逃しており、第二陣には何とか入りたかった。だからショックも大きかったんです。

 昇格を果たしたメンバーは、普段から活動を本当に頑張っていて、キラキラと輝いていました。心の底から「おめでとう! よかった!」という気持ちになりました。その頑張りを同期生として近くで見ていたからでもあります。昇格を果たしたメンバーへの心からの祝福の気持ち、でもその一方でチャンスを逃した自分自身のふがいなさへのいらだち。様々な感情が押し寄せてきました。

 心配してくれているファンの人たちに向けて、何か書かなければならない。でも、気が進みませんでした。浮かんでくるのは悔しさや悲しさの言葉ばかり。でも、そんな言葉だけを届けても、ファンの人たちは幸せな気分にはなれない。泣きながら何度も文章を練り、SNSに投稿しました。悔しい思いも率直に書きましたが、締めくくりで、「大好きな皆さんを幸せにするために」田中美空は頑張る――と、そこでもう一度書きました。

 そうして文字にしたら、不思議と気持ちが落ち着き、「立場が全てじゃない。何よりも、ファンの人たちとこれからも一緒にいたくて、離れたくなくてアイドルをしているんだから」という心の声が聞こえてきました。

 今もその文章を何度も読み返します。あの日感じた自分の気持ちを忘れないためです。この先、いつか昇格を果たせた時にも読むでしょう。苦しい局面に立たされたときに、心の底から「やっぱり私はファンの人たちが大好きだ」と思えたことの記録として。建前でも社交辞令でもなく、「ファンの存在が私の全てなんだ」という心からの感謝に立ち戻った日の思い出として、です。

 あるとき心の中で思ったことや、あるとき抱いた感情は、そのあとの出来事によってどんどん押し流され、いずれ忘れてしまいます。どれだけ技術が進歩しても、動画や写真でいろんなことを記録できるようになっても、自分の胸の内にあるものを保存する手段は文章(言葉)しかない。あわただしい日常にかき消されてしまいそうな理想や、本当の気持ちに人を立ち返らせてくれるのも文章しかない。文章って素敵で深い。小論文から、そしてファンの方々への思いの中から私が得た学びです。

小論文から得た学びとは? 田中美空さんアンケート

写真・図版
田中美空さん=本人提供

 「小論文編」の感想や、文章を書く楽しさなどについて田中美空さんにアンケートをしました。田中さんの回答を紹介します。

     ◇

 ――小論文編を実際に担当してみて、小論文に対するイメージは変わりましたか、変わりませんでしたか。もし変わった部分があれば、教えてください。

 【答】いい意味で変わらないままでした。

 自分視点ではなく 第三者目線で書くことや、客観的な事実が大切になってくる小論文。

 私は日記だったりブログだったりを通じて、自分の気持ちに焦点をあてた文章を書くのが得意だったので 小論文を書く時もどうしてもそちら側に寄ってしまうことが多くなりました。「これが昔から難しいな~と思ってたんよ!!!」と、小論文ならではの難しさに苦戦しました。

 ――SNSなどを含むデジタル空間での発信の重要性が増し、「文章を書く」という営みはアイドルさんたちにとってますます大きな意味合いをもつようになっていると思います。

 小論文編を担当したあと、文章を書くうえで留意するようになったことがもしあれば教えてください。印象に残っている加賀講師のアドバイスなども、もしあれば。

 【答】ある意味、「上手に書こう」と思いすぎないほうがいいのかもな、と考えるようになりました。第2回の加賀先生からの講評で、「悪目立ち」を避けようとすると「良い目立ち」もできなくなる、という言葉があって、すごく印象に残っています。

 第1回のときに自分のアツい気持ちを書きすぎて しまい、もっと広い視点からの記述をすべきだったと反省しました。

 第2回では、自分の個性を抑えめにしてきれいにまとまった文章を書いてみたら、自分でも100%納得できたわけではなく、ファンの方からの反応もイマイチでした(笑)。

 文章としては第1回より第2回の方が上手なのでしょうが、自分の気持ちや言いたいことを抑えてしまったので、結局、真の意味での「文章の良さ」は第1回の方にあったのだと思います。

 その経験を踏まえて、アイドルとして日々つづる文章も「うまく書く!」というより、「ありのままの田中美空」で書くことに意味があると信じて、着飾ることなく書いています。

 ――若い世代は「電話」よりも、文字(絵文字を含む)によるコミュニケーションが多いといいます。しゃべること(話すこと)と、文章でやりとりをすることの二つを比べた場合、友達や家族、メンバー同士の意思疎通の方法としてはどっちが好きですか。

 【答】圧倒的に会話派です!!

 友達とも面と向かって話すことが大好きなので、私はメッセージアプリの返信が遅いです(笑)。

 小論文やブログみたいに、伝えたいことが最初から明らかに定まっているときは文章にして伝えるのが好きなんですが、日常的に意思疎通したいことって「はっきり決まっている」ことより、「ニュアンス」っぽいことの方が多いですよね。

 あとは人と話しているうちに意見が変わることとかも多いですし。その場の会話でどんどん話を深めていって、「あー、それそれ! それが言いたいねん!!」となったり、「それも一理あるな~」となったり。色んな意見を聞きやすい会話(電話など) の方が日常生活においては、私は好きです。

 ――小論文編で書いた小論文について、ファンの方々からはどんな感想が寄せられましたか。それに接して、どのように感じましたか。

 【答】一番うれしかったのはシンプルに「美空ちゃんを推してて幸せ」「応援していて良かった」と言って頂けたり、別のメンバー推しの方に「美空ちゃん推しは、推しからこんな言葉を言われて幸せやろうな~」といった感想を寄せて頂いたりしたことです。

 「このお題で書いて下さい」といわれた時から、3回にわたる文章の終着地点は「ファンの方を幸せにしたい」という意思を伝えること、とぼんやり決めていたので。

 第1回から「この文章で最終的にどうするの?! 気になる~!!」的なことをファンの方から言われるたびに、「しめしめ、あなたたちを幸せにするって書くんだよ~!!」と心の中で思いながらにたにたしていました(笑)。

 小論文の中ではとうてい私の意思は書ききれなかったので、その後のインタビューで深掘りして頂いて言いたいことを全部言えて、それがファンの方に伝わって本当にうれしかったです。

 ――文章を書く楽しさ・難しさについて、思うところをご自由にお願いします。

 【答】目から入ってくる情報が文字しかないので、書いてあることから景色や心情などすべてを想像するしかないのが文章の持ち味で。

 書き手の自分が伝えたい景色、気持ち、言葉が心の中にはっきりあっても、選ぶ単語を間違えると読み手に思ってもいない形で届いてしまうのが文章を書く上で難しいところだなと思います。

 私の場合、今回の小論文のお題では固く決めた意思があったので、いかに誤解を生まずに自分の気持ちをまっすぐに、しかも200文字で伝えられるかが戦いといってもいいぐらいでした(笑)。

 自分が知っている言葉の中から、伝えたい気持ちに一番合う言葉を選んで、それを組み合わせて文章にして、読んでくれた人は私の文章に書いてあることからさらに広げて解釈してくれて……。

 文章を受け取る人によって感じ方も違うので、「書き手の個性×読み手の感受性」で文章の解釈の仕方が無限大に広がるのは文章の楽しいところだな と私は思います。

■田中美空さんプロフィル…

共有