(17日、第106回全国高校野球選手権大会 早稲田実2―3大社=延長十一回)
サヨナラ負けが決まると、早稲田実の主将で遊撃手の宇野真仁朗(3年)はマウンドで座り込み、立ち上がれなくなった川上真(2年)に駆け寄った。涙をぐっとこらえてこう言葉をかけた。「ありがとう。顔を上げて終わろうぜ」
甲子園はずっと夢見てきた場所だった。いまは中学生に野球の指導をする父も、高校で野球に打ち込んだ2人の兄も、たどりつけなかった。甲子園を目指し、千葉の実家を離れ、母と早実のグラウンド近くに引っ越して練習に打ち込んできた。
だが、なかなか甲子園への道は描けなかった。昨夏の新チーム発足当初、まとまりがなく、苦労した。選手それぞれが「自分が打ちたい」という気持ちを前に出し、打線が繫がらない。昨秋の都大会は準決勝、今春の都大会は4回戦で敗れた。
甲子園に出る最後のチャンスとなる夏の西東京大会前最後の練習試合のあと。練習でだらけた姿を見せた選手たちを和泉実監督がとがめた。
宇野は言葉数は多くなく、背中で引っ張るタイプ。でもこの時は仲間に熱を込めて言った。「甲子園行くために頑張ってやろう」
西東京大会では、初戦から延長十回の接戦。激しい打撃戦やサヨナラ勝ちなど、試合を経る度、チームはまとまり、強くなった。「選手みんながそれぞれを信頼しきって戦えるようになった」。高校通算本塁打60本以上を誇り、「自分が打てなければ勝てない」と思っていた宇野自身も変わった。
憧れた甲子園で宇野は躍動した。初戦、走攻守そろった活躍で勝利に大きく貢献。2回戦は守り勝ち、全員野球で勝ち上がってきた。だが、8強をかけたこの日の試合、宇野は封じられた。「力のある球に力で抵抗してしまった。高めの球も威力があった」。5打数無安打に倒れた。
苦しい戦いに勝ち、成長していく。宇野が求め、チームは実践してきた。最後の夏、憧れの場所で信頼する仲間と戦えた。「明日もあいつらと練習してる未来しか見えない」。でも、甲子園でのプレーは一つひとつが楽しかった。やりきった表情で、甲子園をあとにした。(西田有里)