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 深紅の大優勝旗が初めて白河の関を越えたのは、2022年の第104回全国高校野球選手権大会だった。全国制覇を果たしたのは、仙台育英(宮城)だった。

 1本の満塁本塁打が優勝を決定づけた。

 下関国際(山口)との決勝。3点リードで迎えた七回1死満塁。5番打者の岩崎生弥(現・東北学院大)が高めの140キロを引っ張ると、左翼席へ吸い込まれていった。

 チームの大会初アーチであり、岩崎の公式戦初アーチでもあった。当時の取材に「ダイヤモンドを走っているとき、観客から拍手をもらって、『あ、(本塁打を)打ったんだ』と実感しました」と振り返っている。

 最終学年を迎えた岩崎だったが、宮城大会ではベンチには入っていない。1年前に「逆流性食道炎」と診断され、動くと吐き気に襲われた。元々は内野手で守備が得意な選手。治療は思いのほか長引き、動きの少ない打撃の強化に取り組んだ。

 「どん底からはい上がるのが好き」というポジティブな性格が功を奏した。選手権直前の紅白戦で本塁打を放ってメンバー入りし、甲子園では代打から先発の座をつかんだ。

 岩崎の境遇を知る須江航監督は抱き合って喜びながらも、コロナ禍で修学旅行や学内行事などの思い出をつくれなかった世代に思いをはせた。

 「青春って、密なので。でも全国の高校生が苦しい中でもあきらめず、努力してきた。みんなに拍手してください」

 優勝インタビューで、声を詰まらせた。

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