亡くなった3人が向かっていた源泉=高湯温泉観光協会HPから

 福島市の山あいにある高湯温泉でホテル支配人ら3人が亡くなった状態で発見され、一夜明けた19日、福島市は旅館関係者に冬場の源泉管理に関する注意喚起を通知した。

 通知では、源泉管理で入山する場合は、防毒マスクやガス検知管、トランシーバーなどを持って行くことや、複数人で作業することなど、安全管理策の徹底を促した。高湯温泉観光協会は同日、今回の事故を受けた研修会を4月上旬に開くと決めた。

 一方、3人が勤めていた花月ハイランドホテルにはこの日、入り口に「休館」との看板が立てられていた。取材可能か尋ねると、「対応できる者がいない」との答えだった。ホテルHPでは3人が源泉を管理するために入山した17日と翌18日も「館内メンテナンス作業のため全館休館」としていた。

 福島市消防本部によると、3人が見つかったのは源泉から伸びるパイプ沿いの山道にできた雪のくぼ地。現場の硫化水素の濃度は、消防隊員の活動基準の5ppm以上だった。

 福島県警は、硫化水素中毒の可能性もあるとみて死因の特定を急ぐとともに、3人が亡くなった経緯を調べている。

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硫化水素、一定濃度で「ノックダウン」

 公益財団法人「中央温泉研究所」の滝沢英夫・研究部長によると、硫化水素の人体への影響は体重やその日の体調などによって異なるが、数百ppm以上の濃度になると多くの場合、一瞬で意識を失い、最悪の場合は死に至る「ノックダウン」状態に陥る。

 倒れた人を助けようとして巻き込まれる「二次災害」が起きやすいのも硫化水素など火山ガスの事故の特徴だという。2015年に秋田県・乳頭温泉郷付近の源泉施設で配管作業中の3人が亡くなった事故もそうした背景があった。

 温泉利用客に対する安全策としては、環境省が定める浴室の硫化水素濃度や、施設の換気の基準がある。一方、労働者の安全策は、各施設に委ねられているのが現状だ。

 硫化水素中毒などを防ぐために定められた「酸素欠乏症等防止規則」では、下水道施設などの作業は想定されている。しかし、福島労働基準監督署によると、温泉地は対象になっていないという。仮に規則の対象となれば、測定器の利用や、ボンベやマスクから成る「空気呼吸器」の使用が義務付けられる。環境省のガイドラインでも濃度が高い場所では空気呼吸器の使用を推奨している。

 ただ、滝沢部長は「ボンベは重く、消費も早い」とし、高湯温泉のような硫黄泉では温泉成分で詰まりやすい引き湯パイプを頻繁に清掃する必要があるため、厳密な適用は難しいと指摘する。

 滝沢部長は「業界として火山ガスの恐ろしさを再認識し、事故原因を究明して今後の再発防止策の糧としてほしい」と話していた。

火山ガスが関係した主な死亡事故

 1997年9月 福島県・安達太良山の沼ノ平で登山客4人が硫化水素中毒で死亡

 2005年12月 秋田県・泥湯温泉の駐車場脇で一家4人が硫化水素ガスがたまった雪の空洞で死亡

 2015年3月 秋田県・乳頭温泉郷付近の源泉施設で配管作業中の3人が硫化水素中毒で死亡

 2023年7月 福島県・安達太良山で登山客1人が死亡。硫化水素を吸ったとみられる

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