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 漁師や漁村が、観光客を引きつけて収入を増やそうとする試みが各地に広がっている。日本の漁獲量はピーク時の3分の1を切り、漁村は人口減に苦しむ。本業の先行きが見通せないなか、生き残りをかけた模索が始まっている。

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出港からまもなくして現れた海鳥を眺める乗客たち=2025年5月5日、静岡県東伊豆町の稲取港沖、初見翔撮影

 全国的に快晴に恵まれた5月上旬の昼過ぎ、静岡県東伊豆町の稲取港から漁船の稲荷丸(総トン数12トン)がゆっくりと動き出した。漁具の代わりに甲板に並ぶのは10人の観光客。漁のない時間に漁船を有効活用するクルージング(参加費は1人3630円)の始まりだ。

 「海岸をご覧ください。二つの大きな岩が『はさみ石』でございます」

 出港からおよそ10分。スピーカーから案内が流れると、乗客が一斉にカメラを向けた。はさみ石は、高さ10メートルほどの二つの巨岩が小さな岩をはさんだ格好で立つ奇岩で、伊豆半島ジオパークの「ジオサイト」にも登録されている。断崖の下にあるため、陸側から見ることは難しく、クルージング最大の見どころだ。

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二つの巨岩が小さな岩をはさんだ格好で立つ「はさみ石」=2025年5月5日、静岡県東伊豆町の稲取港沖、初見翔撮影

 沖へ出ると波が高くなった。「もうちょっとゆっくり!」。船長の内山直久さん(59)に声をかけたのは、乗客を気遣う妻の綾子さん(56)だ。

 船内では、綾子さんお手製の「さんが焼き」も振る舞われた。とれたてのサバを野菜やみそと一緒に細かくたたいて揚げた郷土料理。岬に立つ神社に海上からお参りし、約40分間の航海を終えた。

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「稲荷丸」の船首で記念撮影をする乗客=2025年5月5日、静岡県東伊豆町の稲取港沖、初見翔撮影

 埼玉県秩父市から参加した小門昌美さん(61)は「海は憧れ。初めて漁船に乗った。観光船とは違う迫力があって楽しめた」。

海にあるのは魚だけじゃない――。漁船や景観などあらゆる資源を活用して収入を増やす「海業」が広がりつつあります。政府が支援を始めた一方、専門家には慎重な見方も。記事後半では全国各地の事例も紹介します。

背景に不漁「年々収入が減って……」

 稲荷丸が観光客向けのクルー…

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