岩手県二戸市浄法寺町の鍛冶(かじ)工房。4月18日、鉄製品をつくる鍛冶職人の中畑文利さん(82)が、隣接する青森県田子町から車いすでやって来た。
「カン、キン、カン、キン」。漆の木に溝を掘り、樹液を採る漆かきに使うカンナをつくるため、秋本風香さん(27)が、高温で熱した鉄をハンマーでたたく。中畑さんがじっと見つめた。
「硬い手だったのに、ずいぶん軟らかくなりましたね」
作業が一段落し、秋本さんが中畑さんの手を握った。「来られてよかったね」。鍛冶仕事を一緒にしてきた妻和子さん(71)が声をかけ、中畑さんの表情がほころぶ。
漆かきの道具一式をつくれるのは長年、国内で中畑さんだけだった。
秋本さんは、市が今春整備した鍛冶工房を拠点に、漆かき職人と、漆かきの道具をつくる鍛冶職人の両立をめざす。
中畑さんは昨年11月に病で倒れた。この日は秋本さんを激励するため、約5カ月ぶりに病院以外での外出となった。
■漆の生産も職人も減少、道具…