研究者同士の競争は激しく、若手もベテランも関係なかった。

 米ワシントン大学名誉教授の大内二三夫(ふみお)さん(76)は半世紀近く米国での生活を続けてきた。

ワシントン大学名誉教授の大内二三夫さん=2025年4月10日、小山裕一撮影

 専門は物質材料学。ガラス、金属、セラミックス、半導体などモノづくりに関する研究だ。スタッフを雇えるだけの研究費を外部から得るため、複数のプロジェクトを常に進めなくてはならない。

 米国防総省や米航空宇宙局(NASA)など国家安全保障に絡む研究費を獲得するため、二十数年前、妻(75)とともに米国籍になった。

 必要な研究費は年間で6千万~7千万円ほど。得られなければ、次の研究はままならない。競争に敗れ、ポストを失う同僚を何人も見てきた。

 試行錯誤しながら研究する生活は充実していたが、研究費獲得のことばかりを考えていた。

 「ずっと走り続けていなくてはいけなかった。それがいいのかどうか、考える余裕はなかった」

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