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感謝状を受け取る川西光志さん(左)=徳島海上保安部提供
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 「今日はどんな映画を見ようかな」

 紀伊水道に浮かぶ人口約100人の離島・伊島(徳島県阿南市)で暮らす漁師の川西光志さん(72)は、月に2、3回、休日に映画を見に行くのが楽しみだ。

 年明け早々の1月4日。この日もイオンモール徳島(徳島市)にある映画館に行くため、伊島への玄関口となる阿南市の答島(こたじま)港へ向け、自らの漁船光漁丸(長さ約9メートル)で出港した。午前7時ごろのことだった。

煙を上げて漂流する瀬渡し船

 出港から数分後。北西に300メートルほど離れた海上で、煙を上げて漂流している瀬渡し船(長さ約11メートル)が見えた。船上で釣り客20人ほどが立ち上がり、川西さんに向かって必死に手を振っているのが分かった。

 「これはただごとではない。行ってみよう」

 ちょうどそのころ、船の乗客は118番通報をしていた。

 「エンジンから火が出て燃えているので、救助願います。20人くらい乗っています。漁船1隻が救助に来てくれています。消火器を使い、いったん火は止まっています」

 ほどなくして川西さんは船に近づき、「船長はおらんのか」と声をかけた。船内で消火作業をしていた船長が出てきて、「伊島まで引航してください」と頼まれた。火災はおさまったものの、自力航行はできないようだった。

ロープをつないで引航、全員けがなく

 川西さんは船長と協力し、互いの船を長さ約50メートルのロープでつないだ。光漁丸は安全のため、ゆっくりと瀬渡し船を引いて伊島へ戻った。着いたのは午前8時前。瀬渡し船にいた計21人にけがはなかった。

 徳島海上保安部によると、海保の巡視船はその30分ほど後に伊島に到着し、鎮火を確認。何らかの原因でエンジンルームから出火したとみられている。

 川西さんは船長や釣り客から感謝の言葉を伝えられた。「煙が出てから、救命胴衣を着けて海へ飛び込む準備もしていた。もう少し遅かったら、本当に飛び込んでいたかもしれない。命が助かりました」と語った客もいたという。

 徳島海上保安部は22日、岩礁に乗り上げる危険のあった船へ急行し、迅速かつ的確な救助活動で21人の尊い人命を救助したとして、川西さんに感謝状を贈った。

 「何かあったら、お互いに助け合うのは当たり前のこと。ひょっとしたら、私も助けられる立場になるかもしれない。また同じことがあったら、もちろん助けに行きます」と川西さん。

 最後に「表彰状なんていらないし、別に新聞記事にしなくてもいいですよ」と笑った。

 映画は後日、改めて見に行ったという。

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