みそ汁を振る舞う冨成寿明さん(左)と谷篤宜さん=2024年9月24日午前11時35分、石川県輪島市町野町東大野、安田琢典撮影

 豪雨被害が大きかった石川県輪島市町野町の仮設住宅で、ミシュランガイド北陸2021特別版で一つ星を獲得した料理人が炊き出しをしている。水道が回復するまで行われる炊き出しは素朴ながらも味は絶品。仮設住宅で暮らす人々に笑顔が広がった。

 24日昼前、料理と食材を積み込んだ1台の軽トラックがやってきた。同市町野町広江で和食料理店「富成」を営む冨成寿明さん(41)は豪雨の翌日から同市町野町東大野の仮設住宅で炊き出しをしてきた。

 24日のメニューはたくあんと紅ショウガをまぶした酢飯と、魚のつみれとシメジ、長ネギが入ったみそ汁。自宅兼店舗は停電で冷蔵庫が使えず、断水もしているため、食材は能登町のスーパーで冷凍のまま仕入れてクーラーボックスで運び、水は自衛隊の給水車で確保する。

 200世帯近くが入居する大規模な仮設住宅のため、昼食として200人分を用意。午前11時に軽トラックが到着すると、大勢の住民が集まって冨成さんを手伝った。

 仮設住宅で暮らす細川隆忠(たかとし)さん(77)は「仮設住宅には町内会もできていないので、大勢の人が同じ場所に集まる機会が減っていた。久々に見る顔もあって安心できた」と笑顔を見せた。

 冨成さんは今年1月の能登半島地震でも、1月上旬から地元で炊き出しを行ってきた。4月から7月末までは同市中心部の避難所で定期的に炊き出しを実施。冨成さんの幼なじみで、同市中心部のすし店で料理人として働く谷篤宜さん(39)も手伝ってきた。

 今回の豪雨で冨成さんの自宅兼店舗は浸水は免れたものの、付近を流れる町野川の支流・寺地川があふれるなどして隣家は浸水し、安否不明者も出た。冨成さんは「どうしてこんなに大きな災害が何度も起こるのか、と心が折れそうになった」と振り返る。

 それでも冨成さんは前を向き、地元の人たちに少しでも安心と笑顔を取り戻してもらおうと、震災後に避難所の人たちを笑顔にさせた炊き出しを再開することにした。

 町野町にはもう1カ所、仮設住宅があり、そこでは夕食を振る舞うつもりだ。冨成さんは「炊き出しで大勢の人が集まって笑顔で話し合い、お互いの元気さを確認できる機会になれば」と話している。(安田琢典)

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