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 仏教絵画の傑作と言われながら、1949(昭和24)年の火災で焼損した奈良・法隆寺の金堂壁画。焼損前の姿を写真撮影し、文化財保護に大きく寄与したのが、京都市中京区の美術工房「便利堂」だ。今年で撮影から90年を迎えたのを機に、金堂壁画の原寸大の複製が同社コロタイプギャラリーで展示されている。

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法隆寺金堂壁画(10号壁)。薬師浄土図とも言われている=2025年6月17日午後0時44分、京都市中京区の便利堂、日比野容子撮影

 便利堂は1935(昭和10)年、当時の文部省国宝保存事業部の事業として、金堂壁画を数カ月かけて363枚に分割して撮影し、精緻(せいち)な記録を取ることに成功した。

 当時は、感光剤を塗ったガラス板に焼き付けて撮影していた。このガラス板を用いてコロタイプと呼ばれる特殊な印刷技術で印刷し、つなぎ合わせて原寸大の複製を制作。この複製をもとに平山郁夫さんら日本画壇を代表する画家たちが彩色を施すなどして復元したのが、今の金堂にある壁画だ。

 便利堂で展示されているのは、同じ原板を用いてコロタイプ印刷された全12幅の複製壁画だ。ギャラリーですべてを一堂に集めて展示するのは初めてという。

 ギャラリーに入ってすぐ左手には、教科書でもおなじみの「阿弥陀浄土図」(6号壁)がある。

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教科書などでもおなじみの法隆寺金堂壁画(6号壁)の原寸大コロタイプ複製画を間近で鑑賞できる=2025年6月17日午後0時43分、京都市中京区の便利堂、日比野容子撮影

 「複製」などと、あなどるなかれ。仏の衣装の小さなひだや装飾。複製ゆえに、実際の金堂では薄暗くて見えにくい壁画の隅々までをはっきり見ることができ、古代の絵師の筆づかいを心ゆくまで堪能できる。

 しかも、12幅の配置は、実際の金堂と同じにしたという。

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法隆寺金堂壁画複製展が開かれているコロタイプギャラリー=2025年6月17日午後1時31分、京都市中京区の便利堂、日比野容子撮影

 コロタイプは19世紀半ばにフランスで生まれた写真印刷技術だが、オフセット印刷の登場などで次第に廃れていった。

 便利堂によると、今、この技術を有するのは世界でも同社を含む京都市内の2社しかない。カラーのコロタイプ印刷に至っては便利堂1社だけだという。

 コロタイプ印刷は保存性や耐久性に優れるとされ、奈良・高松塚古墳の壁画や正倉院文書など、数々の文化財の保存に活用されてきた。

 便利堂社長室の藤木祥子さんは「先人から受け継いだ文化財を後世に伝えていくために、コロタイプの技術を絶やさず、守り抜いていきたい。そんな願いを込めて企画しました」と話す。

 11月8日まで。日祝は休館だが、10月26日、11月2、3日は開館予定。午前10時~午後5時(正午~午後1時は昼休み)。入場無料。問い合わせは便利堂(075・231・4351)へ。

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法隆寺金堂壁画(2号壁)。蓮の茎を手にする菩薩半跏像だ=2025年6月17日午後0時45分、京都市中京区の便利堂、日比野容子撮影

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