松葉さん宛てに父から届いたはがきの一部。大きな字で読みやすく書いてある=松葉美枝子さん提供

 東京で暮らす松葉美枝子さん(87)の手元には、父から届いた軍事郵便はがきが10通ほど残されている。1944年5月18日に茨城県から旧満州(中国東北部)に出征した父は、敗戦後は旧ソ連極東地域に抑留されて、生還できなかった。卒業、就職、結婚……。松葉さんは折にふれて父の便りを手にとり、戦後を歩んだ。

 茨城県旧久賀村(現・つくばみらい市)で荷車づくりの職人だった父北泉栄次郎さんの出征の日。5月とはいえ肌寒さを感じた。村の人たちと1時間ほど列をつくって歩いて隣町の藤代駅へ向かった。

 父は32歳だった。がまぐちから小銭を出し、白っぽいセルロイドの箱に入った金平糖を買ってくれた。列車の窓を開けて、身を乗り出して手を振る父を見た。これが最後の別れだった。

 父の部隊は旧満州東部の第2…

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