駅の本線に向かうJR貨物の通称・タマネギ列車=2023年9月、北海道北見市のJR北見駅、角野貴之撮影

 今春、トラック運転手の残業時間に「年960時間」の上限が設けられた。常態化してきた運転手の長時間労働を抑制するためだが、人手不足で物流が滞る恐れもあり、「2024年問題」とも呼ばれている。23年度の東京都立高校入試の「社会」では、輸送手段を車から鉄道や船に切り替える「モーダルシフト」についての出題があった。東京女子大学の二村真理子教授(交通経済学、物流論)に現状を解説してもらいました。

2023年度都立高校入試 社会(一部抜粋、改題)

 次のⅠの資料は、国土交通省が推進しているモーダルシフトについてまとめたものである。Ⅱのグラフは、重量1トンの貨物を1キロ輸送する際に、営業用貨物自動車と鉄道から排出される二酸化炭素の排出量(20年度)を示したものである。Ⅲの略地図は、貨物鉄道の路線、主な貨物ターミナル駅、七地方区分の境界(20年)を示したものである。Ⅰ~Ⅲの資料から読み取れる(1)「国がモーダルシフトを推進する目的」と(2)「国がモーダルシフトを推進する上で前提となる、七地方区分に着目した貨物鉄道路線の敷設状況及び貨物ターミナル駅の設置状況」の2点について簡単に述べよ。

モーダルシフトとは

Ⅰ トラックなどの営業用貨物自動車で行われている貨物輸送を、貨物鉄道などの利用へと転換することをいう。転換拠点は、貨物ターミナル駅などである。(図表省略)

Ⅲ 貨物鉄道路線と主な貨物ターミナル駅(2020年)

環境にやさしい物流へ、視点転換を 東京女子大学の二村真理子教授に聞く

 1960年代の高度成長期に貨物量が多くなり、効率的な輸送が求められたころ、モーダルシフトという言葉が出てきました。90年代には環境にやさしい輸送手段が求められるようにもなりました。解決が難しい社会課題に高校入試で光が当たるのは、ありがたい思いがします。

 (1)は国がモーダルシフトを進める目的に関する設問ですが、いくつか理由があります。

 トラック輸送は「ドアツードア」で物を運べ、頻度も自在に変えられるという点に高い利便性があります。一方、「図Ⅱ」にあるように、貨物鉄道は二酸化炭素(CO2)排出量がトラックの8分の1程度で、環境面での優位性があります。環境への影響を考えると、今後さらに進めていく必要があります。

切り崩しつつある「年960時間」の貯金

 さらに今こそモーダルシフトを進めなければならない理由に「2024年問題」があります。今年4月に運転手の時間外労働の規制が始まりましたが、今も人手不足は解決しておらず、4月1日から「年960時間」という時間外労働の貯金を少しずつ食いつぶしている状況です。研究者の間では、年末のお歳暮シーズンに苦しくなるんじゃないかとか、来年3月の引っ越しシーズンまで持つのだろうかという懸念が出ています。

 運転手の長時間労働を招く原因の一つに、到着から荷下ろしまでの長い待ち時間があります。運送業界では荷物を受け取る「着荷主」の意向が強く働く商慣行があり、出荷する「発荷主」に午前中の到着を指定する例が多いのです。その結果、物流拠点には、午前中にさばききれない数のトラックが到着し、夕方まで荷下ろしを待つというひどい事例もありました。

 国土交通省は到着から荷下ろしに計2時間までというルールを設けました。各地の運輸局は運転手の労働実態をチェックする「トラックGメン」を増員し、ルールが守られているか現場を回って確かめています。

 一方、貨物鉄道の輸送量は減少傾向にあり、モーダルシフトは進んでいないのが現状です。なぜでしょうか。

 貨物鉄道は、長距離輸送では…

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