「右を見ろ、摘発された詐欺拠点だ」。ミャンマー東部の街、タチレイ市内の幹線道路を車で走ると、地元の事情に詳しい案内の男性(46)がつぶやいた。
門には漢字で書かれた表札が見え、周囲は有刺鉄線を張った壁に覆われている。男性は警告した。「踏み込んではいけない一線だ」
タチレイはタイ最北端に面し、国境ゲートは両国間を行き交う人でにぎわう。ミャンマーの公用語ビルマ語や少数民族シャンの人々が話すシャン語、タイ語が交ざり合う。
街は麻薬の密造地帯として知られるタイ、ラオス、ミャンマーの国境地帯「ゴールデン・トライアングル」にあり、違法な人や物が流れ込む地域としても知られてきた。さらに近年、「特殊詐欺拠点の街」という顔も持つようになった。
日本人の高校生が詐欺に加担させられるなど、大規模な詐欺拠点が置かれたミャワディからは北東に約400キロ。ミャンマー東部の国境地帯には、こうした詐欺拠点が多数存在してきた。
国境のタチレイ なぜ詐欺拠点が?
地元メディアや地元住民の話によると、きっかけはコロナ禍だった。2020年、国境ゲートが閉鎖されるなか、中国やタイからは違法入国者や中国系犯罪組織が流入。衛星画像で見ると、男性が「詐欺拠点」だと言った場所には20年半ばに、バラックのような建物ができたことがわかる。
犯罪組織の流入、そして摘発。取材を進めると、タチレイが「詐欺拠点の街」と化す中で、住民が不安に直面してきたことがわかりました。記事後段では彼らの声を伝えます。
動きを加速させたのは21年、ミャンマー国軍のクーデターだ。情勢悪化で国境当局の腐敗が進み、流入がより容易になったとされる。
中国との国境地帯にあった北…