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シドニーの献血センターで2011年5月、献血するジェームズ・ハリソン氏。数十年に及ぶ記録的な回数の献血で240万人の赤ちゃんを救った=AP/オーストラリア赤十字社ライフブラッド提供

James Harrison, Whose Antibodies Helped Millions, Dies at 88

 ジェームズ・ハリソン氏は、注射針があまり好きではなかった。献血をするときは、針先が腕に刺さるのを見ずにすむよう、顔を背けていたものだ。

 なのに、ハリソン氏は献血のために1173回も腕を差し出した。2月に88歳で亡くなった彼は、史上最も献身的なドナーの一人だったばかりか、医学的にも重要な貢献をしたと言える。ハリソン氏の血漿(けっしょう=血液のうち赤血球や白血球、血小板など以外の液体成分)に含まれる希少な抗体[antibody]が、オーストラリアの赤ちゃんを病気や死の危険から守る薬を製造するのに使われたのだ。医療の専門家によると、推定240万人もの人が恩恵を受けたという。

 「祖父はひたすら献血を続けていた」と孫のジャロド・メロウシップさん(32)は言う。「それが義務だとは感じていなかった。ただ、やりたかっただけだ」

 「黄金の腕を持つ男」の呼び名で親しまれていたハリソン氏。ジャロドさんによると、オーストラリアのシドニーにある、なじみの献血センターから車で1時間ほどの老人ホームで2月17日、就寝中に亡くなった。

 ハリソン氏の血漿には、希少な「抗D」抗体が含まれていた。オーストラリア赤十字社の献血部門ライフブラッドによると、それが、妊婦の免疫系が胎児の赤血球を攻撃してしまう恐れがある場合に投与する製剤に使われた。

 抗D抗体が役に立つのは、赤ちゃんと母親のRh血液型が異なる場合で、最も多いのは胎児が「Rhプラス」、母親が「Rhマイナス」のケースだ(訳注:日本ではRhマイナスの人の割合は豪州よりずっと低いが、やはり同様のケースが生じる。「Rh式血液型不適合妊娠」と言う)。

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ハリソン氏には少年時代、大量の輸血を必要とする手術を受けた経験がありました。その恩返しにと始めた献血が、大勢の人を救う製剤に結実します。針が怖くて、腕に刺さるところを見るのも嫌だったのに……。

 このような場合、母親の免疫…

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