JR海南駅前の商店街。レトロな雰囲気のビルの中に、これまた昭和の風情を醸し出している店がある。

 「ドムドムハンバーガー 海南FC店」。メニューは全国の店舗とほぼ同じ。甘辛チキンバーガーや、手作り厚焼きたまごバーガーが人気だ。また、クレープも注文が多く、夕方には学校帰りの高校生が買い求める。全国の店舗では珍しいシェークを楽しみに来店する「ドムドム」ファンもいるという。

 店を切り盛りするのは上野知美さん(70)。1978年4月にオープンした。駅前にショッピングセンター「海南センタープラザ」ができたのを機に、フランチャイズ開店に挑戦した。

 駅前で約100年営業している食堂の長女として生まれた。「商売がいやで教師になる勉強をしてきたのに、自分から店を開くなんて」と笑って振り返る。開店の2年後に結婚してからは、地元の金融機関を退職した夫の善広さん(73)も加勢した。「調理は他人に任せられない」と、厨房(ちゅうぼう)の中で注文の品を黙々と作り続けている。知美さんは、接客とクレープ作りが中心だ。

 ファストフード店なのに、店内にはゆったりとした時間が流れている。買い物帰りの主婦が店に寄り、コーヒーを頼む。「奥さんとおしゃべりがしたくて店に来る」と、30年以上通っている近くの女性。知美さん自身も「店を開いていて、お客さんとのふれあいが一番楽しい」と話す。

 それでも、休日ともなると50ほどの席はいっぱいになる。「レトロな感じが、ネットとかで評判を呼んでいるみたい」と知美さん。全国に展開する「ドムドムフードサービス」によると、海南FC店は、現在ある29店舗の中で、最も長く営業している。客に「このお店の雰囲気を変えないで」と言われることもあるという。

 開店当初、アルバイトで働いていた女子高生が、今は孫を連れてくることも。「長いことやっているから、知り合いもたくさん」と知美さん。ついつい接客も長くなってしまう。

 2年前には、「専業主婦から社長になった」と話題になった藤崎忍社長が店を訪れた。「この雰囲気を大切に、これからもがんばって」と激励されたことが誇りだ。

 今の悩みは店の今後だ。「私たちだけで続けるのも大変になってきた」。これまで休日は月1回だったが、昨年10月、原則毎週月・火曜を休みにした。「できれば若い人に継いでもらいたい」

 語呂合わせの「ドムドムハンバーガーの日」は10月6日。5日から9日までは、増量した甘辛チキンバーガーが食べられる。

 「みんながほっとできる店が続けばいいと思います」(寺沢尚晃)

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 〈ドムドムハンバーガー海南FC店〉 和歌山県海南市名高536の15 海南センタープラザ1階。甘辛チキンバーガー460円や手作り厚焼きたまごバーガー420円(いずれも税込み)などが売れ筋だが、気軽に食べられるクレープなども人気だ。営業は午前10時~午後7時。電話(073・483・4606)。月・火曜休み。

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