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専用ミシンを操作しながらグラブを直す細谷裕之さん=2024年6月7日午前10時34分、秋田市、阿部浩明撮影
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 いよいよ夏の甲子園の幕があく。たゆまぬ練習で出場をかなえた球児たち。破れたグラブやほころびたボールを修繕してくれる「裏方さん」も、夢舞台での選手の躍動を応援している。(阿部浩明)

 秋田市の「クドウスポーツ」は、グラブやスパイクなどの修理を手がける県内でも数少ない野球専門店だ。

 同店の細谷裕之さん(53)によると、最近のグラブは「軽い、柔らかい」を追求し、素材が弱いという。「しかも今の子は、手のひらでなく網で捕球しようとするからすぐに破れてしまう」

 傷んだグラブは、いったん全部ばらして革を張り直す。弱い箇所には裏から革を当てて補強し、専用のミシンで縫い上げる。最後に、ひもを締め直して丁寧に調整する。

 細谷さんは、スポーツ用品メーカーのミズノのキャラバンに参加したり、元メジャーリーガー・イチローのグラブを作った職人のもとで修業を積んだりして、腕を磨いてきた。

 忘れられない高校球児がいる。スポーツ少年団の頃から知る選手。高3でレギュラーをつかみ、捕手に定着した。

 春に練習試合を観戦したとき、捕球したミットからぽろっと球がこぼれるのを目撃した。「こりゃまずい」。すぐに修理してあげた。

 「まだこれ使うの?」というくらい傷みが激しく、もう限界だったが、本人は買い替えずにそのミットを使い続けた。

 「いま新品に替えてしまうと、手になじむまでに時間がかかる。夏の大会に間に合わない」が理由だった。

 破れては繕い、また破れては繕い、を何度も繰り返した細谷さん。

 「ここぞという場面で、バックホームが空タッチになったりすると困るからね」

 チームのため、あえて古いミットにこだわった選手。その思いを、細谷さんは持てる技術を注いで支えた。

     ◇

 青森県藤崎町の福祉事業所「はればれ」では、施設を利用する障害者たちが、傷んだ硬式野球ボールの再生にいそしんでいる。

 泥にまみれた練習用のボール。タワシなどでこすり過ぎないよう注意しながら汚れを落とす。それからほつれたり切れたりした糸をほぐし、新しい糸で丁寧に縫い直す。

 主に部分縫いだが、状態によっては2枚の革そのものを張り替えることも。最後に、糸の不自然な盛り上がりをなくすため、職員がハンマーで最終調整して仕上げる。

 同事業所は、日本プロ野球OBクラブがオフィシャルサポーターの「エコボール事業」に2017年から参加。現在、提携校の弘前学院聖愛高校と弘前東高校から定期的に受注している。

 2校で年間200~300球ほど。1球の作業工賃は部分縫いが100円、全部縫いが150円。通常の請負作業(1~10円単位)に比べて単価は高いが、数量が少なく、年間の継続作業にはなっていないのが実情だ。

 「それでも利用者にとって、選手との交流がやりがいにもなっている」と所長の高谷和也さん(47)は話す。ボールの回収や納品時には必ず利用者も学校に出向く。監督や選手とふれあうのを楽しみにしているという。

 利用者の女性(59)は神経を集中して、修繕にあたっている。「まだ使える良い糸はなるべく大切に残したいので、ほつれた糸をほぐすとき、どこまでほぐしたらいいか迷います」

 「糸をほぐすときが一番楽しい」という利用者の男性(32)は「選手のみなさんは、新しくなったボールを使って野球を頑張ってほしい」とエールを送った。

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