《後編》ABC予想は証明されたか
数学の超難問「ABC予想」を証明したとする京都大の望月新一教授(56)の論文は、受理が直前で白紙になった。審査や論文の根幹について海外から批判が噴出したためだ。2018年初頭のことだった。
ABC予想の証明論文の受理から5年たちましたが、超難問の証明を数学界が認める状況にはなっていません。混迷の時代に突入したいきさつを読み解く連載の2回です。
- 《前編》 数学「ABC予想」は証明されたか 論文受理から5年、論争は迷宮へ
- 《アニメで解説》ABC予想 世紀の難問 – たし算とかけ算の謎に迫る
論文の審査継続を決めたのは、京大数理解析研究所の教授陣からなる編集委員会。数学誌に掲載する「受理」をいったん保留にし、査読者に論文の再検証を依頼した。世界的に高名な数学者、柏原正樹氏(78)を新たに迎え、編集委員長を2人態勢に手厚くした。
懐疑派の「誤解」を解く試みもされた。
仲介したのは、数理研の元所長、森重文氏(74)。当時、世界中の数学者の集まりである国際数学連合の総裁だった。
18年春、理解者側と懐疑派の対面が京都で実現した。
理解者側は、京大数理研から望月氏と星裕一郎准教授(43)。懐疑派は、ドイツからボン大のピーター・ショルツ教授(37)と、ゲーテ大のヤコブ・スティックス教授。
望月論文は「何も起きていない」
だが、解決の光は差し込まなかった。京大の一室で始まった議論は平行線をたどり、実りないまま5日間が過ぎ、ショルツ氏らは予定を早めて京都を去った。
ショルツ氏らはのちに「証明にはとても深刻な問題があり、微修正では救うことはできない」とリポート(https://www.math.uni-bonn.de/people/scholze/WhyABCisStillaConjecture.pdf)で断じた。問題視する「系3.12」の証明については「何も起きていないように見える」と突き放した。
望月氏は反論した。ショルツ氏らの誤解の原因は「熟考する時間の不足と、新しい数学への不慣れさ」とリポートで批判(https://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~motizuki/Rpt2018.pdf)。「学部・院生レベルの初等理論についての深刻な無知さを宣言している」と皮肉った。
歩み寄りの試みは決裂。理論創始者と若き天才数学者の対決は「世界で最も難しい数学の証明の果てしなき戦い」と欧米メディアに論評された。望月氏はのちに論文に追加説明も加えたが、ショルツ氏は納得しなかった。
それから2年後。20年4月3日、京大数理研は論文の正しさを認め、数学誌への掲載を決めたと発表した。
編集委員長の1人、玉川安騎男教授は「審査には100%の自信を持っている」と語った。ショルツ氏らが指摘した疑問は、査読者や研究所内の検証の結果、問題ないと判断された。
ただ、編集委員会では「大勢が分からないといっている論文を認めていいのか」と否定的な意見もあったとされる。最終的に、論文の正否は著者に帰するとして、受理が決まった。
衝撃の論文発表から7年半。ABC予想の証明は認められた。
当然、批判が海外で再燃した。
従来の数学を破壊「脳が疲れる」
ショルツ氏は取材に対し、「…