ボートに乗せるために子どもを器具でつり上げる狩野岳人さん(手前)=大津市、狩野さん提供

 【滋賀】琵琶湖に魅せられた消防士は、20年以上勤めた消防の仕事を辞めて、家族といっしょに群馬県から大津市の湖岸近くに移り住んだ。元消防士は、その選択について「後悔はまったくない」と充実した表情で言う。

 元消防士は、前橋市出身の狩野岳人(かのうたけひと)さん(49)。2021年に21年勤めた前橋市消防局を退職し、大津市北部の湖岸近くに移り住んだ。

 バス釣りが趣味で、消防士のときに群馬県から琵琶湖に通っていた。いつかは琵琶湖の近くに住みたい、と思っていた。

 40歳を過ぎて3年ほどが経ったころ、妻に「移り住みたいんだけど、どうですか」と聞いた。「ダメ元で聞いた」が、反対はされなかった。

 子どもは息子が2人おり、小学生と保育園児だった。琵琶湖に連れて来て、湖水浴や釣りを通して、琵琶湖の素晴らしさをアピールした。

 移住することを決めて、湖岸近くの家を買った。息子は泣いたというが、一家4人で念願の湖岸近くに移り住んだ。

 移住とともに始めた仕事があった。障害がある人でも琵琶湖でアウトドアを楽しめる、バリアフリーアウトドアサポートだ。屋号は「wildwater(ワイルドウォーター)」という。

 息子たちが琵琶湖で元気に遊んでいる姿を見て、思いついた仕事だった。

 生きたのが、21年勤めた消防士の経験だった。水難救助に携わる「潜水隊員」を約20年務め、操船技術も自信があった。緊急消防援助隊として、東日本大震災の被災地などに派遣された経験もある。

 人命救助の最前線にいたからこそできる仕事――。それがバリアフリーアウトドアサポートだった。

 「wildwater」では、車いすの利用者でも、SUP(サップ)やカヌー、カヤック、釣りなどのアウトドアを体験できる。狩野さんが、乗降装置の付いた頑丈なボートなどでサポートする。

 開業して4年近くが経つ。申し込みはまだ少ないというが、これまでに小児まひの子どもらの体験をサポートした。湖上の笑顔を見て「やっていてよかった」と思ったという。

 仕事はこれだけではなく、木の伐採などもして生計を立てている。

 狩野さんは、消防士を辞めた選択について「後悔はまったくない」と言う。高校生と小学生になった息子も、関西弁が板についてきたという。

 いま暮らしているのは自然豊かな土地。前橋市にいるときと比べて、「きれいだな」と感じる瞬間が増えた。朝起きたときに、気持ちいいなと感じるという。

 「wildwater」は今年、「ジャパントラベルアワード」(東京の広告制作会社・しいたけクリエイティブ主催)の「アクセシブル部門」を受賞した。観光からより良い社会をつくることを目的につくられた賞で、「DEI」(多様性・公平性・包摂性)などが評価された。

 2月に東京であった表彰式に出席した狩野さんは、「すごい励みになった。需要は少ないかもしれないが、これからも続けていかないと、と思っている。障害に合わせた対応ができるので、相談してほしい」と話している。

 アウトドア体験は健常者も受け付けている。問い合わせは狩野さん(090・3471・1321)へ。

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