映画「木の上の軍隊」のモデルとなった山口静雄さんの地元・宮崎県小林市を訪れた平一紘監督=2025年7月28日宮崎県小林市役所

 沖縄・伊江島で終戦を知らず木の上に身を隠して生き延びた2人の兵士の話をもとにした映画「木の上の軍隊」の平一紘監督(35)らが、モデルとなった兵士の一人、山口静雄さんの故郷である宮崎県小林市を訪れ、作品への思いを語った。

 映画は、作家の井上ひさしさん原案の舞台をもとにしている。激しい攻防戦が繰り広げられる伊江島で沖縄出身と宮崎出身の日本兵がガジュマルの木の上に身を潜め、敗戦を知らないまま約2年過ごした実話から着想を得ており、その兵士の一人が山口さんだった。

 映画公開に合わせ7月28日、平監督と横澤匡広プロデューサー(48)が山口さんの墓前で報告後、市役所を訪問した。

 もととなった舞台作品の登場人物は「上官と新兵」という設定で、実際に生きた2人をキャラクターに反映したものではない。ただ沖縄出身の平さんは「山口さんはどんなことが幸せだったのか、どんな場所に帰ったのか、背景を知りたかった」と、脚本を書く段階で取材に訪れていたという。

 山口さんの地元は霧島連山のふもと近くに広がる農村地帯にある。「作品が出来た後に改めて訪ねて緑の濃い田園風景を見て、ここが帰りたかった場所なんだと実感した。ここに生きて帰ってくれて感謝の気持ち」と話した。

 沖縄を拠点に映画をつくる横澤さんは「内地と沖縄の兵士が一緒に生き抜いたという事実の物語から、沖縄の今のいろいろな問題が解決できる希望が見えるのではないかと思った」と作品の映画化の理由を語る。

 「今まで沖縄戦を描いた映画で、地元からつくられたものがなかった。終戦80年に沖縄の若い監督につくってもらうことで、終戦100年につなげたい」と平監督に声をかけたという。

 平さんは「沖縄だけでなくこの国の多くの人が、戦争が起きてしまった後の価値観で生きてきた。これからもしまた戦争が起きてしまった時、また大きく変わってしまう価値観を恐怖に思っている。そうしてはいけないということの気づきになれば」と話した。

 「一時的な興行でなく、節目節目で上映していきたい映画」と平監督。宮原義久市長が「(地元に映画館がないので)子どもたちや市民が地元で見られる機会をつくりたい」と言うと、平さんは「その時には僕も来て感想を語り合いたい」と応じた。

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