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名古屋高等裁判所

 精神障害のある名古屋市の40代男性が、生活保護の「障害者加算」を受けられなかったのは市側の不適切な対応が原因だとして、市に賠償を求めた訴訟の控訴審判決が24日、名古屋高裁であった。片田信宏裁判長は「市側は男性の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害した」と認定。男性が敗訴した一審・名古屋地裁判決を取り消し、加算の不支給分相当の約50万円の賠償を市に命じた。

 障害者加算は、生活により多くの費用が必要な障害のある生活保護利用者が最低限度の生活を営めるよう支給を上乗せする制度。精神障害者手帳1、2級などの書類を持っていると対象になる。

 控訴審判決によると、男性は2013年に統合失調症を発症。16年5月から生活保護を利用し、同年11月に精神障害者手帳2級を取得した。男性が19年7月、市に問い合わせると2年8カ月にわたり加算されていなかったことが判明した。

「極めて容易な調査すら行わず」 市の対応の背景とは

 控訴審判決は、手帳取得に関する書類が取得と同時期に病院から市側に提出されていたことなどを踏まえ、市側は男性の手帳取得を認識できたと批判。市側は手帳取得を男性に確認しなかったなどとして、「極めて容易な調査すら行わず調査義務を怠った」と違法性を認めた。

 市側は、男性が手帳取得を届け出なかったため調査義務は負わないと主張。一審判決では認められた。だが控訴審判決は、男性が市側から受け取ったパンフレットには加算についての記載や、届け出の必要があるとの説明がなかったなどと指摘。男性に過失はないとした。

 判決後に男性の代理人弁護士らが市内で記者会見を開いた。中山弦弁護士は「市には、最低限度の生活を保障する基本的な職責、義務があると全面的に受け入れてもらった」と評価。裁判で意見書を提出した公的扶助論が専門の花園大学・吉永純教授は「加算があって初めて障害の無い人と同じ生活レベルを保障することになる」と述べ、今回の不適切な対応は市のケースワーカー不足も背景ではないかと分析した。

 市保護課は「新たな判断が示された事実は重く受け止めたい。今後、国とも協議していきたい」とコメントした。

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