(24日、第97回選抜高校野球大会2回戦 西日本短大付11―5山梨学院)
頼れるエースは最後まで崩れなかった。
七回、4点差に追い上げられ、なお2死一、三塁のピンチ。西日本短大付(福岡)の内野陣がマウンドに集まった。中野琉碧(るい)投手(3年)の球数はすでに130球近かった。
伝令にきた上野生太選手(3年)は「点差があるから、落ち着いていこう」と西村慎太郎監督からの助言を伝えたものの、その後が続かず、「何も言うことないけど、とりあえず切り替えていこう」と絞り出すと、笑いが起きた。
「雰囲気が和んだ」という中野投手は、次打者を遊ゴロに打ち取った。八回には小川耕平主将(3年)の三塁線の打球に飛びつく好守もあり、1失点で切り抜けた。低めへの投球を心がけ、終盤まで外野への長打は許さなかった。
九回は監督に続投を志願。「三者凡退で終える」と気合を入れ直し、最後は投ゴロをつかんでガッツポーズで締めた。
九州大会で初回8失点、糧にした冬
大垣日大との初戦(20日)は九回を投げきり、今大会の完封「一番乗り」。昨夏の甲子園でも2、3回戦にいずれも救援登板して計4イニング無失点と安定した投球を披露するなど甲子園との相性は抜群だ。
新チーム発足後は、公式戦の多くを1人で投げ抜いてきたが、昨秋の沖縄尚学との九州大会準決勝では、制球を乱して初回に8失点。結局、1―11でコールド負けした。
この敗戦を糧に、春までに筋トレや走り込みを精力的にこなし、たくましさを増した。この日の試合で「150球を超えても粘れたのは、成果が出た」と話す。
「彼のいいところは、授業など日常生活とグラウンドでの態度が変わらないこと」と西村監督。負けん気が強く、豊富な練習量に裏付けられたエースの勝負強さに信頼を寄せている。
社会人野球監督の父からメッセージ
そんな中野投手の父・滋樹さん(44)は、社会人野球の強豪・JR九州の監督だ。現役時代は捕手。柳ケ浦(大分)では3年夏に甲子園に出場し、松坂大輔投手を擁する横浜に初戦で敗れた。
子どもの頃から都市対抗野球大会などを見に行き、父の背中を追って、野球を始めた。父とキャッチボールをすると、「暴投したらボールを取りに行かされた」と笑顔で振り返る。
普段、野球の話は「父からはしてこない」というが、選抜初戦の試合後は「完封おめでとう」、2回戦の朝は「慎重になりすぎるなよ、楽しんでいけ」とSNSのメッセージが届いた。
「あまり意識はしなかったけど、甲子園は楽しめています」
準々決勝は父が敗れた優勝候補の横浜に挑む。