(8日、第107回全国高等学校野球選手権三重大会1回戦 四日市南10―3神戸)
7点を追う七回裏2死満塁、あと1アウトでコールド負けの場面。神戸の主将水野真杜(しんと)選手(3年)が打席に立った。
「キャプテンならここで(1点)取るぞ。自分のためよりも、チームのために出塁したい」
バットを振らず、球を見極めた。四球を選ぶと、喜びがあふれ「よっしゃー!」と叫んだ。押し出しの1点がスコアボードに刻まれ、一塁側スタンドからひときわ大きな歓声が上がった。
エースでもある真杜選手は、2学年上の兄の背中を追って小学生で野球を始めた。兄の水野陸翔さん(19)はいなべ総合の2枚看板のエースの一人として、2023年夏に甲子園の土を踏んだ。
兄が三重大会を制覇した当時、「次はお前ががんばれよ」と周囲から期待をかけられた。真杜選手はそのプレッシャーをやる気に変えてきた。
「真杜はずっと兄を尊敬してきました」と父の圭介さん(50)。大学進学後も野球を続ける兄が、寮から自宅に戻れば「スライダーを教えてよ」と言って2人でキャッチボールをする姿を圭介さんは覚えている。
最後の夏。試合前の朝、真杜選手のもとに兄からLINEが届いた。
「大丈夫やからね。緊張せんで、楽しんで」
序盤に6失点こそしたが、四回は落ち着きを見せ、直球にカーブを織り交ぜて三者連続三振に抑えた。敗れてもエースとしての持ち味を示した。
真杜選手は大学でも野球を続けるつもりだ。「お兄ちゃんのおかげで楽しく野球ができたよ。ありがとう」。憧れの兄に、そう伝えたい。