甲子園では海外出身の選手も多く活躍している。九州でも慣れない環境や厳しい練習に向き合い、憧れの地を目指す選手たちがいる。

宮崎県高校野球選手権大会県南地区予選で本塁に生還し、仲間に迎えられる日南学園の蔡韋辰さん=2025年5月20日午前9時23分、宮崎県日南市、奥正光撮影

 5月26日、春の公式戦。打席に入る前に球審に向かって、190センチを超える長身を深く折り曲げた。日南学園(宮崎県日南市)外野手の蔡韋辰(サイウェイチェン)さん(3年)が台湾の野球少年だった頃から続ける一礼だ。その直後、鋭い打球を左中間へ放った。

 台湾北部・桃園市の山あいで育った。白球を打つのも走るのも大好きで、10歳になる前に地元のチームへ。小学生の台湾代表にも選ばれた。台湾にある日南学園の姉妹校(中学)に進学。中2の時に授業で目の当たりにしたのが、阪神甲子園球場での熱戦を伝える動画だった。

 「真剣勝負。一球に集中する球児。スタンドの大歓声」に、魅せられた。「負けたら最後の一戦にかける気持ちにひかれた。自分もあそこでやりたい」。日南学園中学に転入して同高校へ。野球漬けの寮生活が始まった。食事の白米、みそ汁の味が故郷に比べて「うすい」と感じたことも。でも台湾を離れる時に誓ったことがある。「その国の文化に溶け込むために、自分が変わろう」

宮崎県高校野球選手権大会県南地区予選で、本塁に生還した日南学園の蔡韋辰さん=2025年5月20日午前9時23分、宮崎県日南市、奥正光撮影

 入部当初は、先輩たちの日本語の指示の意味がわからず戸惑いの連続。だから同じ台湾出身の先輩にくっついて意味を聞き込んで頭にたたき込んだ。学校でも日本語学習に集中し、日本語能力試験の「N3」を取得。毎晩寝る前に書き込む野球日誌には、丁寧な字をつづった。「一日一日大切に練習をしていく」「来週の目標 ライナーを打つ」

 1年の秋からベンチ入りしたが、打席で打ちたい気持ちが前に出てバランスを崩すこともあった。金川豪一郎監督(47)は「走って鍛え、そして練習して、少しずつ技術も身についてきた。打撃では精神的に余裕をもって球を呼び込むことができるようになり、チームの柱に成長した」と話す。

 チームは2年連続で宮崎大会準決勝で敗退。そして迎える、最後の夏。甲子園でファインプレーをして、大声援を受ける――。バットを振り込み、抱き続けた夢の舞台の切符を仲間たちとつかむ。

柳川にはザガリアス・ギャビン・マヘサさん(右)だけではなく、同じくインドネシア出身の2年生、ヌグラハ・ナジ・アーランさんもいる=2025年5月21日午後5時56分、福岡県柳川市、山本達洋撮影

 多くの外国人留学生を受け入れてきた柳川(福岡県柳川市)にはインドネシア出身の2年生2人がいる。その1人が投手のザガリアス・ギャビン・マヘサさん。6歳で野球を始めたが、母国ではマイナースポーツ。多くの人に愛される甲子園という舞台のある日本に憧れた。両親は心配したが、意志が揺らぐことはなかった。ネットで調べて、柳川にやってきた。

 春夏計16回の甲子園出場(柳川商時代を含む)を誇る柳川。入学直後はきつかった。グラウンド3周とダッシュ10本は、いつも最後尾。それでも主将の中石爽太さん(3年)も「いつも笑顔」と語る前向きさで実力を伸ばし、今ではすっかりチームに溶け込んだ。

 コーチや部員たちが交代で目標や日々の思いをつづるチームノート。自分の順番が回ってきた5月16日には大きな文字で「すべては甲子園のために」と書き込んだ。母国で憧れた「高校球児」として迎える2度目の夏はもう目の前だ。

柳川のザガリアス・ギャビン・マヘサさんが目標を記したノート=2025年5月21日午後5時15分、福岡県柳川市、山本達洋撮影

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