企業版ふるさと納税を活用した福島県国見町の高規格救急車の研究開発事業が中止になった問題で、町議会は15日、引地真町長と佐藤克成副町長の減給条例案を賛成少数で否決した。議員からは町長に事実上、辞職を求める意見もあったが、引地町長は再発防止の陣頭に立つとして辞職しない考えを示した。
町はこの日の臨時議会に、引地町長を全額、佐藤副町長は半額を1カ月減給する条例案を提出。引地町長は「町の第三者委員会などに事務手続きの問題点が指摘された。(従来の)瑕疵(かし)はなかったという考えを改め、結果の責任を重く受け止める」と提案理由を説明し、「町民や議会におわびする」と謝罪した。
しかし、議員からは「1カ月の減給で済まない。もっと重い責任の取り方があるのでは」などと、事実上の辞職を迫る意見があり、採決の結果は反対7、賛成2だった。
議会後の記者会見で、引地町長は「任期を全うし、対策を練り上げていく」と改めて自身の辞職を否定し、再発防止を担う「事務執行適正化検証委員会(仮称)」を設置したい考えを示した。一方、否決された減給条例の再提案は考えていないとした。
この事業は、町が匿名3社からの寄付金を原資に、備蓄食品製造会社ワンテーブル(宮城県)に発注した。その後、当時の社長が「行政機能をぶんどる」などと発言していたことが明らかになり、不信感を強めた町は事業を中止した。
議会側が設けた調査特別委員会(百条委員会)では、ワン社が町との契約前にベルリング社(東京都)に救急車を発注していたことなどが判明し、百条委は報告書で「入札を装う随意契約だった」として、引地町長に政治的責任を果たすよう求めた。また、町が設置した第三者委員会も「手続きの公平性、透明性を欠いた」と指摘していた。
町は臨時議会に先立ち、10日付で事業に関わった職員4人を懲戒処分にした。2人が3カ月と1カ月の減給(ともに10分の1)で、2人が戒告。減給の2人は私的なSNSの交流サイトでワン社に決裁前の情報を伝えるなどし、他は業務の処理が不適切とされた。
同町では、11月に町長選がある。再選を目指す引地町長ら3人が立候補を予定しており、救急車問題が選挙戦の争点になりそうだ。(ライター・荒海謙一)