自分や身近な人が病気になったり、年を重ね衰えをおぼえたりすると、不安や悲しい気持ちがわいてきます。そんな時、心に寄り添う存在になれたら――。5千人以上のがん患者の話を聞いてきた精神科医の清水研さん(53)にお話を聞きました。

 ――不安を感じる時、どうしたらいいのでしょう。

 不安は脅威に備えて身を守るための大切な感情です。あって当然な状況でなくそうとすると、余計に焦るので、無理に消そうとしないでください。

 適切に情報を得て、行動を変える。運動や料理などをして体を動かすと、不安をおぼえにくい。そうした時間を増やしてください。今に意識を向けて自分を客観視するマインドフルネスもおすすめです。

清水研さん=東京都江東区、鬼室黎撮影

 ――病気の診断を受けたり、大切な人が亡くなったりし、悲しみを感じるときの対処法は?

 健康を失うとか大事な人の死は喪失。これに伴う感情が悲しみで、傷つきを癒やす働きがあります。涙が出るのは、まだ受け止め切れていないというサイン。事実を受け止めようとしている自分をだめだと思う必要はありません。悲しみも不安も自然な感情なので、あまり敵視しないでください。

相手を理解する姿勢を

 ――悲しんでいる人にどんな態度で接すれば?

 相手が心境を話してくれれば懸命に聞く。そして「簡単には前向きになれませんよね」と相手を理解する姿勢を示すことが大切です。安易に励ますのは良くありません。

 ――年齢を重ねて、老いや衰えを感じ、落ち込む人がいます。

 40、50代になると、責任は増える一方、エネルギーは落ちる。頑張って成長してきた若い頃のモデルを手放すときが、誰にも訪れます。社会から認められることで満たされてきた第1ステージから第2ステージへと移るのです。ここでは内面的な豊かさによって満たされるようになります。

 ――どうすれば内面が豊かになるのでしょう。

 私は、「自分はこうあるべきだ」という意識をとっぱらうことで自然とそうなりました。「~すべきだ」から自由になると、心地良いものや温かな人間関係が引き寄せられます。

清水研さん=東京都江東区、鬼室黎撮影

 ――死とはどう向き合えばよいのでしょう?

 死という終わりがあると認識するからこそ、輝くものがあると思います。自分らしい生き方に向かうことができ、人の生き方も肯定できるようになります。人生は一度だけの旅。いずれ失われると限界を感じれば、感謝の思いがわいてきます。感謝することで豊かになっていきます。

適切な情報、どう選ぶ?

 ――不安への対処には適切な情報が必要といいますが、多くの情報の中からどう選べばいいのでしょう。

 間違った情報を出すと批判される、公的な組織からの情報が信頼できるものと言えるでしょう。

 ただ、現実を認めたくないとの思いから、自分に都合がよい情報に飛びついてしまう人がいます。孤立せず、信頼できる人や主治医らに相談してください。

 ――ご自身もネット記事やSNSでの発信もされています。その際に気をつけていることと、今年15周年を迎える医療サイト「朝日新聞アピタル」への助言をいただけますか。

 多くに読まれるために「エッジのきいた見出しを」と求められることがありますが、「この表現で誰かが傷つかないか」と常に気をつけています。

 そうした理念があれば、「温かい媒体」ととらえてもらえるのではないでしょうか。受け手とやりとりする双方向性を意識し、共感できる記事を発信することで、信頼感や安心感が芽生えていくのだと思います。

 しみず・けん がん研究会有明病院腫瘍(しゅよう)精神科部長。1998年金沢大学医学部卒。国立がんセンター(当時)などを経て2020年から現職。著書に「不安を味方にして生きる 『折れないこころ』のつくり方」など。

 医療や健康に関する情報をウェブサイトで伝えてきた「朝日新聞アピタル」が、4月に15周年を迎えます。医療取材を専門とする記者たちのコミュニティとして、新たな一歩を踏み出し、読者のみなさまとのつながりを、さらに深めていきます。

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