「森本も被爆者手帳の申請をしたらどうか」
2021年11月、もみじ銀行の前身である広島総合銀行の元頭取・森本弘道さん(89)=広島市西区=の携帯電話に、小学校の同級生だった男性から電話があった。
同級生は、森本さんがかつて金融関連の雑誌に寄稿した文章のコピーを手元に保管していた。原爆投下後、爆心地から10キロ以上離れた国民学校で「黒い雨」に遭った経験を記したものだ。
同級生からの電話の4カ月前に広島高裁が、国の援護対象区域の外で黒い雨を浴びるなどした原告84人全員を被爆者と認める判決を出していた。
森本さんは悩んだ。「自分はけがも原爆症もない。被爆者手帳を受け取っていいのか」。ただ、国民学校の同級生らは手帳を申請しており、自分だけしないのは気が引ける――。申請すると決め、寄稿文のコピーを手に市役所に出向いた。
国は22年4月、黒い雨に遭った人を幅広く被爆者として認める新基準を設け、森本さんも被爆者に認定された。
「体験伝える責任が」
手に取った手帳は、重く感じ…