川口晃稔警部補=2025年6月11日、津市栄町1丁目、安田琢典撮影

 懸命に働いてためたお金や、思い入れのある品を盗まれた人たちから出される被害届の行間には無念、自責の念、悲しみがにじむ。被害者の思いをくみ、後を絶たない窃盗事件を一つでも解決するのが使命だと三重県警捜査3課の川口晃稔警部補(41)は思う。地道な聞き込み、サイバー捜査技術を駆使し、きょうも被疑者に迫る。

 川口さんが名張署に勤務していた29歳のとき、一つ目の転機が訪れた。

 取り調べをしていた容疑者の男が、「現金200万円を盗んだ」とおもむろに口にした。被害に遭った家を訪れると、子どもたちと暮らす80代の女性が一筋の涙を流し、打ち明けた。

 「盗まれたことは分かっていた。でも、子どもたちには言えなかった」。夫と一緒に墓を建てるためのお金だった。事件後、夫は間もなく亡くなったと聞いた。

 男は家の修理に訪れた業者だったという。女性の涙に後悔と自責の念を感じた。「人生を変えてしまう窃盗という行為を絶対に許さない」と誓った。

2つめの転機は「神様」との出会い

 翌年、二つ目の転機が訪れる…

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