この夏は、最速140キロを。
投手として挑む2回目の夏。南伊勢の小川魁士(かいと)主将(3年)は、東爪雅史監督(37)との約束を果たすため、「四日市四郷・南伊勢・鳥羽」の連合チームで全国選手権三重大会に出場する。
1年の夏は捕手として出場し、初戦で久居に0―33で五回コールド負け。部員が足りなかったため、テニス部などに助っ人を頼んで「南伊勢」の単独チームで出場したが、明らかに練習不足だった。
2年の夏は、投手として「南伊勢・石薬師・四日市四郷」の連合チームでのぞんだ。初戦で四日市南に0―10で六回コールド負けだったが、1人で投げきった。
中学時代は内野手だった小川主将に、「自分で試合を作れるぞ」と投手を勧めたのは、東爪監督だ。自らは宇治山田の投手だった2005年夏、久居農林との準々決勝で延長十四回を投げ抜き、ベスト4に進んだ経験がある。
小川主将が投手を始めた1年の秋、球速は最速で125キロだった。2年の夏は130キロを超え、3年の春には135キロに達した。「練習すればするほど球威が増す。投手が楽しくてたまらない」
だが、練習環境は過酷だった。野球部がある南伊勢高校の度会校舎(三重県度会町)は、全校生徒78人の少人数校。小川主将が2年生の時、同学年と1年生部員はいなかったため、3年の2人が引退すると、部員は小川主将だけになってしまった。
昨秋以降は、東爪監督のミットをめがけてひたすら投げ込み、ティーバッティングでスイングをくり返す日々。東爪監督に所用がある時は、1人でネットをめがけて投球練習をした。「来年は140キロと九回完投をめざす」と監督と約束を交わし、その目標に向け、冬も体作りに手を抜かなかった。
今春、野球部に1年生3人が入ってくれた。1人ではできなかったシートノックやフリー打撃が思う存分できる。土・日曜には連合チームとして練習試合をこなし、他校の選手との連係プレーも上達してきた。何より、時には冗談を交えながら、後輩に打撃や守備を教える時間の充実感がいい。
小川主将の決め球はスライダー。140キロの速球があれば、変化球はより生きる。アウトを重ね、長いイニングを投げきることができる。「監督と作り上げてきたフォーム。イメージ通りの軌道に投げられれば、打ち取れるようになった」
南伊勢はこの夏、単独チームで1勝した21年以来の初戦突破をめざす。「野球部の存続すら危ぶまれる中、1人で部の歴史をつないでくれた。最後の夏、後輩の前で140キロの力投を見せて欲しい」と東爪監督は期待を込めた。