My吹部seasons
吹奏楽コンクールの西関東支部には「埼玉」という高い山々がそびえ立っている。
西関東支部を構成しているのは埼玉・群馬・山梨・新潟の4県だが、支部ができてから全日本吹奏楽コンクール(全国大会)・高校の部に出場した西関東代表は、群馬県の1校以外は埼玉県勢が占めてきた。
新潟県内の吹奏楽の実力バンド、東京学館新潟高校(新潟市中央区)は、西関東大会・高校A部門(大編成)に10回出場。特に、2018年以降は連続出場しており、21、22年は2年連続で金賞に輝いた。だが、その後2年は銀賞だった。
同校吹奏楽部を指揮する顧問の村山文隆はこう語る。
「埼玉の高校はライブの演奏でもまるで録音のように聞こえます。基礎から緻密(ちみつ)に練習していて、個々の技術も高い。新潟が対抗するのは本当に大変です。A部門への出場校も埼玉は多いですが、新潟は昨年8校。吹奏楽人口も、層の厚さも違います」
部員たちの目標は初の全国大会出場。村山も「コンクールに出るからには、そこを目指したい」と語る。
ただ、指導者として最も大切にしているのは「心を育てる」ことだという。「部活動に逆風が吹いているときだからこそ、部活動は心を育てるものなんだということを重視し、社会にも広く知ってもらいたいと思っています」
そんな村山の指導を受け、今年度は部員84人が明るく元気に活動を続けている。
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今年度の部長を務めているのは、トロンボーン担当の3年、花田咲希だ。楽器を始めたのは小4のときだったという。
得意なものなし でも打ち込みたい
「勉強も運動も得意ではなく、趣味も特技もなかったので、何かを見つけたいと思ってブラスバンドのクラブに入りました。トロンボーンは、管楽器で唯一、指ではなく腕を動かして音を変える楽器。そのオンリーワンなところに引かれて希望しました」
中学では吹奏楽部に入り、中2のときには西関東大会で銀賞を受賞した。
「でも、中3では県大会で銅賞……。『このままじゃ終われない!』と思い、新潟でいちばん全国大会に近そうな東京学館新潟に入ることに決めたんです」
だが、高1のときにはコンクールメンバーには選ばれず、勝負の西関東大会ではファゴットのスタンドをステージに運ぶ役目だった。
「やっぱりメンバーに選ばれなかったのはつらかったです。コンクールに向けた練習ではタイムを計ったり、お弁当を並べたり。そんなとき、心の支えになったのは音楽室に貼られた『夢は叶(かな)えろ! 初心を忘れず謙虚に素直に最高の努力を!!』という言葉でした」
咲希は、楽器を始めたころの楽しさ、東京学館新潟に入ったときの胸躍る気持ちを思い出しながら、「来年こそはメンバーに!」と練習に励んだ。昨年は念願かなってメンバーとして西関東大会に出場したが、結果は銀賞。「埼玉」の山の高さを知った。
上級生が引退し、部長に選ばれた。
「いままでリーダーの経験がなかったので不安もありました。自分の気持ちを伝えるのが苦手で、ついため込んでしまうところもあります。ただ、『私が先頭に立ってやっていかなきゃ!』という思いは強いので、自分を変え、部活もよい方向へ変えていきたいです」
【連載】My吹部Seasons
吹奏楽作家のオザワ部長が各地の吹奏楽部を訪ねます。
■信じられないレベルに衝撃 …