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インド西部プネーのトラック製造工場で2024年10月11日、エンジンを据え付ける従業員たち=ロイター

 牛や水鳥が戯れる湿地の中を縫うように車を走らせると、かすんだ空気の向こうに黒い巨大な影が見えた。小山のように見えるそれは、完成間近の集合住宅群だった。

 インド南部タミルナドゥ(TN)州の農村地帯に現れた建物は、米アップルのiPhoneを組み立てる労働者のために建てられた寮だ。電気自動車分野で三菱自動車と協業すると報じられた、台湾の受託製造大手・鴻海精密工業の工場労働者のために用意された。

 10階建ての建物が13棟並び、計1万8720人が暮らせる。入居開始を控え、現場技術者のプラビーンさん(27)は「大事業をやり遂げた」と感慨深げに話した。

「どれをとっても過去に例がない」

 州の産業促進公社(SIPCOT)が推進したこの事業が異例なのは、収容人数の多さだけではない。鴻海側の要望を受け、土地や建設費用など事業費約70億6千万ルピー(約123億円)を、主にインド側が工面した。

 村の家庭が若い女性たちを働きに出すのをためらわないよう、有刺鉄線を張った壁で囲い、防犯カメラを完備して安全管理の徹底をアピール。食堂やスポーツを楽しめる施設も備える。SIPCOTの責任者が「どれをとっても過去に例がない」と話すこのプロジェクトからは、産業誘致への「本気度」がうかがえる。

 現地報道によると、鴻海は付近に約1万8千人を収容できる別の寮も自前で完成させた。スマートフォンの生産が、村の景色を変えつつある。

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インド南部タミルナドゥ州の産業促進公社(SIPCOT)が整備した、鴻海精密工業の工場労働者向けの寮の前をバイクで走り抜ける、地元の若者たち=2024年12月2日、スリペルンブドゥル、伊藤弘毅撮影

南部タミルナドゥ州で進むiPhone産業の集積は、モディ政権の製造業振興策「メイク・イン・インディア」の成功例に挙げられます。記事後半では、過去10年間にわたる政策の評価に加え、インドで製造業を育てる難しさに迫ります。

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