秦野総合高校には神奈川県立高校で唯一、校舎に天文台がある。「開かれた天文台」を掲げて県民の利用も図ってきたが、コロナ禍で途絶えた。昨年、ようやく地元住民の天体観測会を復活し、天文部員らは再び広く活用してもらおうと模索している。
「すごい!クレーターの影がはっきり見えるよ」。11日夜、校舎屋上の天文台のドーム内に、子どもたちの歓声が響いた。地元住民でつくる「星っ子クラブ」の親子ら27人が参加した天体観測会。この日は望遠鏡を月に向け、順番に眺めてスマホで撮影もした。南小学校3年の福崎翔太さん(8)は「初めて見た。めっちゃきれい」と少し興奮した様子。天文部員たちは校内の先導や望遠鏡の設定にあたった。
標高約160メートルの渋沢丘陵の上に位置し、360度の眺望に恵まれた秦野総合高校は2008年、県立秦野南が丘高校と県立大秦野高校が再編統合して開校した。旧秦野南が丘高校の校舎を使い、天文台も同校の校舎ができた1982年ごろに設置された。
当時、県立高校では特色ある校舎建築が進められ、「文化のための1%システム」として、建設費の1%分を県費で上乗せしていた。天体観測に好条件の環境を生かそうと、その1%分を天文台の設置に充てた。
地元のシンボル的存在として活用に力を入れ、授業や部活動以外に多くの機会で一般開放し、地域交流の場となった。秦野総合高校に再編後もその方針を継承。天文台の愛称も公募し、「秦野まほろば天文台」の名が付いた。2018年には、老朽化した天体望遠鏡も新機器に更新した。
だが、20年のコロナ禍で外部との交流ができなくなった。天文部員も代替わりし、ノウハウも途切れてしまった。
天文部顧問で総括教諭の内藤芳久さん(63)は、「生徒たちにいろいろな機会を体験、挑戦させてあげたい」という。旧秦野南が丘高校でも天文部顧問を務めた経験がある内藤さんは、地域交流が活発だったころもよく知っている。ただ、教諭が主導するだけではなく、「生徒が自分たちで考えて、行動してもらいたい」とも話す。
現在の天文部員は11人。月に一度は泊まりがけで星の観測をしている。11日の観測会で望遠鏡の設定を担当した3年生の部長、飯塚琉唯(るい)さん(17)は「天文台があることで貴重な体験ができる。地域ぐるみの活動は、とてもいいことだと思う」。「星っ子クラブ」が所属する地域団体の代表、小泉学さん(56)は「大人も感動する。学校が可能な範囲で、地域活用を広げてもらいたい」という。
参加者の案内役を務めた1年生部員の徳増奏輔さん(15)は、天文台があることを知って高校を受験したという。校外の人との初めての交流に緊張気味だったが、天体観測は「ロマンがあって、楽しい」。この日、部員たちは学校に残り、夜通しペルセウス座流星群を観測した。(中島秀憲)