修復され、本尊の木造千手観音立像の両脇に立つ2体の木造天王立像=2025年3月12日午後1時50分、千葉県南房総市久保

 千葉県南房総市久保の真言宗智山派・真野寺が所有する「木造天王立像」2体の修復が終わり、約3年ぶりに寺に戻ってきた。市や朝日新聞文化財団が助成した。修復の過程で新たな発見もあり、市指定文化財としての価値も高まった。

 2体は阿形(あぎょう)像と吽形(うんぎょう)像。ともに寺に記録が残っておらず作者や制作の時期は不明だ。今回の修復に尽力した東京芸大の松田誠一郎教授は「怒りの表情の中に穏やかさがあることや他の像の状況などから平安時代後期のものと推測される」と話す。

 現在は本堂にあるが、関東大震災で倒壊する前は仁王門でまつられていた。高さはともに約1.7メートルあり、ヒノキの一本(いちぼく)造り。ただ老朽化がひどく、立像だが壁にもたれるように立っていた。欠落したり、つぎはぎのようになっていたりする部分もあった。

 そこで開創1300年記念事業としてさいたま市緑区で彫刻制作や文化財修復を手掛ける「たまや」(鈴木篤代表)で修復することになった。費用は1千万円ほどかかったという。

 鈴木さんによると、修復の過程で、2体は他の像の一部を使って直されていることや、それぞれが1本の材を半分にして作られていることがわかった。阿吽一対のこの二天王像の他に、材の残り半分を使った同様の像が2体ある「四天王像」である可能性が高まったという。

 修復が終わった像は11日に寺に到着した。ただトラックの入れない本堂までは担いで急坂を上らなくてはならない。寺の関係者だけでなく、檀家(だんか)や地域の人も加わって約10人で2時間余かけて運び入れた。

 本尊の両脇にしっかりと立つ二像を見て、檀家の人たちは「3年ぶりにきれいになって帰ってきたなあ」と喜んだ。伊藤尚徳住職は「きちんと修復したいというみんなの願いがかなった。威風とともにおおらかさがある像で、この像の背景にある平安時代の安房地域の歴史も伝えていきたい」と話している。

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 〈真野寺〉 725(神亀2)年に開山された。覆面で顔を隠している本尊の「木造千手観音立像」と「木造大黒天立像」などは県有形文化財に指定されている。アジサイやサクラ、オミナエシの群生など四季の花々が境内を彩り、「花の寺」としても知られる。

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