中島京子 お茶うけに
「小さいおうち」で直木賞、「やさしい猫」で吉川英治文学賞などを受賞した小説家の中島京子さんが、日々の暮らしのなかで感じるさまざまなことをつづる連載エッセーです。
7、8年近く前のことになるだろうか。眼鏡店で近眼用眼鏡をあつらえたとき、技能士さんとわたしは、ちょっと険悪な雰囲気になった。
わたしとしては、できる限り広く活躍するものを作りたいと思っていた。近眼補正の度合いは少し緩くてもかまわないので、一日中かけていられる眼鏡が理想だった。長く使っていた近眼用眼鏡では、もう遠くを見るのがむずかしくなっていたのだ。
でも、検査をし、希望を伝え、いざ新しい眼鏡を作ろうというときになって、技能士さんが言うのである。
「近眼の方は、本を読むときは、むしろ裸眼のほうが読みやすいと思います」
ま、それはたしかに、そうだった。
「車の運転時はコンタクトをされるのですね?」
いや、できれば車の運転時も…