島根県浜田市出身の神経科学者・田渕理史(まさし)さん(40)=米ケース・ウェスタン・リザーブ大アシスタント・プロフェッサー=が、睡眠と脳の関係を調べる研究で、若手研究者を顕彰する日米の科学賞を同時受賞した。研究では昆虫も用いていて、田渕さんは「自然に囲まれた浜田で昆虫採集に夢中になったのが原点かも知れない」と喜びを語った。
米国の科学振興研究所から表彰されたテーマは「種を超えた睡眠不足後の認知機能向上のための3Dゲノム再配線」。米国の大学の博士2人との共同研究で、認知機能の維持、修復程度を上げる分子機構の解明に取り組んだ。一方、文部科学省に提出したテーマは「睡眠制御の加齢変容をモデルとした脳の情報処理原理の研究」。ショウジョウバエなどが睡眠する際の行動や神経リズムを調べ、睡眠と脳波、加齢を組み合わせた独自性のある研究が評価された。
これらの研究は、人の睡眠中に体力回復を促進させる創薬開発などに寄与することが期待されるという。
田渕さんは、浜田市で生まれ育った。小さい頃から水生昆虫好きで、自宅にそろえた11の水槽でゲンゴロウやコオイムシの観察に明け暮れたという。浜田高2年の時には、休部状態だった生物部を復活させた。筑波大生物学類に進学し、本格的に神経科学の研究を開始。卒業後、東京大で工学の博士号を取得し、米国に渡ったという。
6月中旬に一時帰国した田渕さんは取材に、「研究につながったきっかけは、昆虫好きにさせてくれた浜田の風土。失敗をたくさん繰り返し多くを学んだが、今も変わらないです」と話した。