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 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、寝ている間にのどが塞がり、呼吸が何度も止まってしまう病気だ。多くの人はそのたびに呼吸しようとするため、血圧や脈拍が、一晩中ジェットコースターのように乱高下する。呼吸が止まるたびに「覚醒」するため、眠りも浅い。成人男性の5人に1人、閉経後の女性の10人に1人は、治療の対象になるSASを抱えているという。肥満が最大の危険因子だが、肥満がなくてもリスクの高い人がいることが、最近の疫学調査などからわかってきた。

太ってなくても睡眠時無呼吸の人、特徴は

 日本大学の陳和夫・特任教授(京都大学非常勤兼務)らは、2013~16年、「ながはまコホート」に参加する滋賀県長浜市の成人約1万人を対象に、睡眠呼吸障害(一部SAS以外を含む)の有無や生活習慣病との関連を調べた。その結果、男性は約24%、閉経後の女性は約10%、閉経前の女性は1.5%が、治療の対象になるSASを抱えていた。

 肥満の程度が上がるほど重症度が増していたが、肥満でなくてもSASがある人もいた。特に、男性は高血圧、女性は糖尿病があると、SASを合併している割合が高まることもわかった。

 高血圧については、薬を何種類も飲んでいるのに血圧のコントロールができていない人に、SASが多かった。

 SASの発症には、肥満以外にも、あごの形や、舌の大きさなども影響していると考えられている。陳さんは「それほど太っていなくても、高血圧や糖尿病の薬を飲んでいるのに数値をうまくコントロールできないという人は、SASを疑ってもよいかもしれない」と指摘する。

眠りを調べる「睡眠ポリグラフ検査」

 SASは、睡眠1時間あたり5回以上の無呼吸や低呼吸があって日中に過度の眠気などの症状があるか、自覚症状にかかわらず15回以上の無呼吸や低呼吸があると診断される。5回以上は軽症、15回以上は中等症、30回以上は重症だ。

 診断には、医療機関に一晩入院をして睡眠の状態を調べる「睡眠ポリグラフ検査」を受ける。頭や顔、胸、腹、手足などにさまざまなセンサーをつけ、脳波や、気流、血中酸素飽和度、胸や腹の動きなどを調べる。事前に、在宅でできる簡易モニター検査をしてから入院検査を受けることが多く、簡易検査で40回以上の無呼吸が確認される場合、入院検査をせずに診断されることもある。

 治療は、中等症以上の人は、鼻にマスクをつけて空気をおくり、空気の圧力でふさがった気道をひろげるCPAP療法の対象になる。CPAPの機器は昔に比べて、静音、小型になり、快適性が増しているという。データを医療機関に自動で送る機能や、加湿機能がついているものもある。

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CPAPという機器の例。鼻だけをマスクで覆い、ヘッドバンドで固定する

 このほか、あごの位置を調整して舌がのどをふさぐことを防ぐ、マウスピースを使った治療もある。

いびきや日中の眠気「自分ではわかっていない」と思って

 日中の眠気と、寝ている間のいびきが特徴的な症状だが、いびきや無呼吸は自分では気づきにくい。日中の眠気もつい過小評価してしまうなど、症状があってもなかなか受診に結びつかないのがこの病気の特徴でもある。

 虎の門病院(東京都港区)の富田康弘医師は「『自分の睡眠のことは、自分ではわかっていない部分も多い』という認識をもってもらうことが大事」と話す。

 家族からの指摘が受診につながることも多く、受診を促す際には、いびきの音を録音して本人に聞いてもらうのも、一つの方法だ。

 治療ができる全国の医療機関は、医療機器メーカーが運営する啓発サイト「無呼吸ラボ」(https://mukokyu-lab.jp/)や「睡眠時無呼吸なおそう.com」(https://659naoso.com/別ウインドウで開きます)などで探せる。

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CPAPによる治療

良くなると「仕事のパフォーマンス」上がることも

 厚生労働省が23年度にまとめた健康づくりのための睡眠ガイドでは、成人は1日最低でも6時間以上の睡眠が推奨されている。SASの治療では、機器を使いながら、生活習慣の見直しも促していく。睡眠時間をしっかりとれるような一日の過ごし方のほか、節酒や減塩、体重を減らすことも助言する。

 SASが改善されると、高血圧が改善したり、夜間の頻尿が減ったり、日中の眠気から解放されて仕事のパフォーマンスが上がったりする、などの効果が期待できる。

 富田さんは「睡眠時間が足りていても眠気を感じていたり、家族に繰り返しいびきを指摘されていたりするなら、一度受診をしてみてほしい」と話していた。

自由診療のいびき治療にご注意「無呼吸が悪化する恐れも」

 なお、自由診療のクリニックなどで行われているいびきのレーザー治療では、SASは改善されないという。のどの奥が固くなり、かえって無呼吸を悪化させる恐れがあることも分かっており、日本呼吸器学会の診療ガイドラインでは「SASの治療として推奨できない」と明示し、注意を呼びかけている。

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