現場へ! 輝ける未来映画社(3)
映画「侍タイムスリッパー」は、出演者が広く知られていない顔ぶれなのも見る者を驚かせた。
監督の安田淳一(58)は自主制作で低予算という事情を逆手にとり、実力派の演技で物語への没入感を高めることに成功した。
「スターで映画を作るより映画でスターを作るほうが、おもしろい」。大手資本や芸能事務所の意向に左右されがちな業界にあって、安田の挑戦的な発想が実を結び、主役の斬られ役を演じた山口馬木也(52)、敵役の冨家ノリマサ(63)はドラマに舞台と活躍の場を広げる。
この人情活劇の基調を織りなすのは、なにより脇を固める関西の秘蔵俳優陣だ。
看板ヒロイン「演技は自然体」
劇中でも制作現場でも助監督を務めた未来映画社の看板ヒロイン・沙倉ゆうの(45)。地味な眼鏡にラガーシャツ姿でカチンコを握り、「大丈夫ですか?」と役者を気づかう。撮影後は母の助けも借り、刀の手入れなど裏方の仕事に徹して汗を流した。
兵庫県西宮市出身。幼いころ、高校の体育教師だった父を冬山の滑落事故で亡くす。中学3年の時には阪神・淡路大震災に遭い、避難先の公民館で余震にふるえながら眠れぬ夜を過ごした。「記憶は深く心に刻まれています」
バレエやダンスに打ち込み俳優業へ。20年前、イベント用ムービーの演者を探していた安田の目に留まる。初の長編作「拳銃と目玉焼」(2014年)でワケありの喫茶店員、続く「ごはん」(17年)では米農家を継ぐ娘を熱演。ごはんの撮影は足かけ10年に及んだが、へこたれず安田に並走した。「みんなに応援してもらえるキャラクターを、今後も自然体で演じられたら」と気負いはない。
安田組に欠かせないのが、今…