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工藤裕也さん=2024年10月21日、札幌市中央区、新谷千布美撮影
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 北海道・知床半島沖で観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が沈没し、乗客乗員26人が死亡・行方不明となった事故から23日で2年半。乗客の家族たちはSNSを通じて緩やかなつながりをつくり、情報共有を重ねる。家族会の共同代表を務める、神奈川県の社会福祉士工藤裕也さん(43)に現状を聞いた。

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 ――どんな2年半を過ごしたのでしょう?

 事故から3カ月がたったころ、弁護士から母に知らせが届いたんです。姉とその子どもがカズワンに乗っていて、行方不明だと。

 姉とは、両親の離婚で物心がつく前に離ればなれになったので記憶も交流もなく、このとき初めて存在を知りました。だから、最初は実感がありませんでした。

 ――どう変わっていきましたか?

 母は泣き崩れ、大きく取り乱しました。精神的な不調も続くようになりました。私が国土交通省や保険会社とのやりとりを担当しましたが、その中で、カズワンを運航していた「知床遊覧船」への不信感も抱きました。

 昨年4月、斜里町での追悼式に参加しました。他の家族とつながり、多くの人が母のように苦しんでいる姿を目の当たりにしました。社会福祉士でもあるので、もっとサポートできないかと共同代表を引き受けました。

 ――今年は7月に民事訴訟の集団提訴がありました。10月には運航会社社長が業務上過失致死罪で起訴されています。

 ようやくスタートが切れたように思います。ただ、家族ごとに事情が違うので、裁判への関わり方は一様ではありません。刑事と民事の両方の裁判に参加する家族もいれば、刑事裁判だけの方もいます。

 母は、民事の原告には加わりました。しかし刑事裁判は精神的な負担が大きく、釧路と距離もあるので、「検察官に任せたい」と話しています。みな注視はしています。

 ――ほかの家族との交流は?

 10月20日に釧路地検が、刑事裁判の説明会を開きました。その後、顔を合わせての交流会を企画しました。ある乗客のデジタルカメラが今年になって発見され、データの復元に成功し、家族が写真を配ってくれました。沈没直前の様子や、乗客の表情も映っていて、涙を流す方もいました。

 ――今後は?

 斜里町に慰霊碑などを建てたいと要望しています。町に寄せられた寄付金の活用など、交渉が必要になりそうです。有志による洋上慰霊の企画もあると聞き、とてもうれしく思っています。ただ、実現できるかどうか見通せず、不安な家族がいるのも事実です。地域の人、社会の人には広く関心を寄せ続けてほしいと思っています。(聞き手・新谷千布美)

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