「○○(息子の名前)とお風呂に入っている夢をみた。○○が膝の上に座っていて、お尻の骨が当たって痛かった。(中略)少し久しぶりに思い出した感覚。やっぱり会えなくなるのがわかっていて、後ろから○○を抱きしめた」
北海道・知床半島沖で26人が乗った観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が沈没した事故から2年半が過ぎた。
当時7歳の息子と元妻(当時42)が行方不明となっている帯広市の男性(52)は、夢に2人が出てきた時、忘れないように、ノートに書きとめている。以前、取材時に男性が見せてくれたページの一節には愛情があふれていた。
私にも、その子の2歳年上の娘がいる。小さい子を持つ親なら誰でも体験したであろうあの感覚。共感するとともに、胸が苦しくなった。
背中にのってじゃれてきた/一緒で布団に寝ていて、暑くて掛け布団をはぐっていた/ブロックで電車をつくってあげた
ノートに書かれているのは、息子との何げない日常。そのすべてが今はかなわない。「会いたくても会えない。抱きしめることもできない……」。取材中、そう絞り出す男性の言葉に、うなずくことしかできなかった。
事故後、体調を崩し、仕事も辞めざるを得なくなった男性。家族の人生も大きく狂わされ、苦しみは今も続いている。
今年10月、運航会社の知床遊覧船社長の桂田精一容疑者が業務上過失致死罪で起訴された。
逮捕時、男性は怒りを込めて話した。「安全に対する意識、人の命をあずかっているということを軽視した結果だ」。乗客の命を預かる職務につく者は、改めて心に刻むべき言葉だろう。