野球部を支える地元の人たちがいる。ボールを磨き、料理を作る人たちの存在が、選手たちを励ます。そしてその人たちも、懸命に練習に取り組み、甲子園を目指す選手たちに力をもらっている。

 ボールの泥を布で落とした後、消しゴムで一球一球を丁寧にきれいにしていく。鹿児島県鹿屋市のデイサービスセンター鹿屋長寿園では、利用者が空き時間に地元の鹿屋中央高校野球部の練習球を磨いている。多い時は10人ほどが、1時間ほどボールに向かう。

会話を楽しみながら、練習球を磨く施設の利用者たち=2025年5月30日午後2時12分、鹿児島県鹿屋市下祓川町、井潟克弘撮影

 ボール磨きが始まったのは昨年12月。利用者に野球好きが多く、園が鹿屋中央に話を持ち掛けた。1カ月に1回、約100球を野球部から預かる。1球を仕上げるのに30分ほどかかり、手や指の運動になっているという。

 週2回通う松浦正博さん(80)は、毎回ボール磨きをする。中学時代は野球部。夏の大会が始まるとラジオで欠かさず試合実況を聞く。「『頑張れ』という思いを込めながら磨いている」と話す。

 今年3月には当時の野球部員35人から、お礼のメッセージを書いた色紙が届いた。スタッフの小中原陽子さん(50)は「部員のみなさんに喜んでもらっていることも大きな励みになっている」と話す。

部員から届いたメッセージと施設の利用者たち=2025年5月30日午後2時38分、鹿児島県鹿屋市下祓川町、井潟克弘撮影

 鹿屋中央は昨年の鹿児島大会はベスト8。甲子園は2014年の初出場以来、遠ざかっている。主将の宮嶋正輝さん(3年)は「きれいなボールを見ると練習にも気合が入る。甲子園に出ることで恩返しがしたい」と意気込む。

部員ゼロから再起 食で応援

 熊本県荒尾市で約20年間、お好み焼きやハンバーガーの店を経営する源嶋博史さん(44)は、月1、2回、市内にある岱志(たいし)高校の野球部員30人の夕食を作っている。

 市内約35店が入る飲食店組合組合長の源嶋さんに夕食作りの依頼があったのは2年前。部員が一時ゼロになった後、OBらの支援で新しい監督が就任して再始動が決まってからだった。

岱志高校野球部に食事を運ぶ「縁」の寺本美津子さん(左)と高野早苗さん=2025年5月29日午後5時3分、熊本県長洲町高浜、八尋紀子撮影

 2校が統合して15年に開校した岱志だが、生徒数の減少が続いていた。「地元の学校を食で支えられれば」と引き受けた。組合員に呼びかけると15店が協力してくれた。順番で週5日、学校に料理を運ぶことになった。部員が増え、大量調理ができなくなった店がやめたこともあったが、今は居酒屋や定食屋、中華料理店など8店が週2回、料理を提供している。

 小学校からサッカー一筋だった源嶋さんは、LINEで報告される試合結果に一喜一憂するように。「野球部が強くなれば、地元も盛り上がる」と期待する。

 週3日の夕食を担うのは、学校近くの熊本県長洲町で子ども食堂をしていたことから頼まれた寺本美津子さん(65)と高野早苗さん(64)だ。

 畑で作ったり、親戚などからもらったりした野菜などは無償提供。保護者が野菜を寄付してくれたり、知人から「岱志にあげて」と食材をもらったりすることも増えた。「応援がつながっていっていることを感じる」と寺本さん。野球に縁はなかったが、昨夏の大会や練習試合を見に行った。「いつもがんばっているから、応援したい」と、今夏も楽しみにしている。

 後藤将和監督(57)は「手作りで、バラエティー豊かな食事だから食が進む」。主将の三吉幸希さん(2年)はカツカレーが大好き。「おいしいからたくさん食べるようになった」と感謝している。

地元の飲食店が作ったハヤシライスを食べる岱志高校野球部の選手たち=2025年5月29日午後7時27分、熊本県荒尾市荒尾、八尋紀子撮影
地元の飲食店が作ったハヤシライスやコロッケを配膳する岱志高校野球部の選手たち=2025年5月29日午後7時9分、熊本県荒尾市荒尾、八尋紀子撮影

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